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吹き飛んだ需要、生まれた需要

 20年2月ごろから、国内でも新型コロナが本格的に問題になり始め、同年4月には政府が緊急事態宣言を発令した。当時、由紀精密やCreative Worksはどのような状況にあったかとのモデレーターの質問に対して、いずれも「厳しい」との回答であった。

 まず大坪氏は「非常に影響を受けている」と話す。由紀精密のこれまでの航空宇宙業界へのチャレンジを大きく覆されかねない状況であるからだ。

 コロナ禍では、ウイルスの感染拡大を防ぐため、全世界の移動手段と組織に大幅な制限がかかった。それに伴い、航空宇宙関連の生産も中止あるいは延期になった。「航空宇宙関連は少しずつ受注が取れ始めてきていたところだった。“1度取れれば息の長い産業”であり、今後に対して大きな期待も持っていた。それが急に、来年以降の見通しが立たない状況になった。航空宇宙以外も含めて広い業種で案件を持っていたとはいえ、状況としてはかなり厳しいと考えている」(大坪氏)

宇宙ステーション補給機「こうのとり」の小型回収カプセル。姿勢制御用のノズルを由紀精密がコイワイ(神奈川県小田原市)と共同で担当した(投映資料の出所:JAXA)
宇宙ステーション補給機「こうのとり」の小型回収カプセル。姿勢制御用のノズルを由紀精密がコイワイ(神奈川県小田原市)と共同で担当した(投映資料の出所:JAXA)
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 ただし「今、落ちている産業がある一方で、伸びている産業がある」とも大坪氏は述べる。「例えば、ネットワーク系やコンピューター系は後者である。そこで使われる半導体の製造装置が伸びる、といった想定での取り組みが大事になる。おもちゃ業界は、いわゆる『巣ごもり需要』で伸びているといわれる」(大坪氏)。以前より外出を制限し、自宅にこもる人たちが増える中で、デリバリーや通販、ホビー関連の需要は増えている。

 由紀精密は2020年6月に価格200万円の高級アナログレコードプレーヤー「AP-0」を発売した。同社が得意とする精密旋盤加工技術と、航空宇宙業界の機械設計の技術をシンプルに生かした製品である。「在宅の時間が増えた大人に向けて、当初の予定を延期することなく市場投入した。年内に10台販売が目標。予約も既に幾つか入っている」(大坪氏)。社内の機械設計者の個人的活動から企画された製品であって、コロナ禍が生じるかなり以前から開発を始めており、今日の市場の動向は由紀精密にとっても想定外だった。

由紀精密が開発した高級アナログプレーヤー(投映資料の出所:由紀精密)
由紀精密が開発した高級アナログプレーヤー(投映資料の出所:由紀精密)
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 一方、宮本氏も、「顧客の仕事も減っているので、当然、溶接の案件も減ってきている。4月ごろはまだ前期からの仕事があったが、この数カ月くらいはストップする案件が増えた。その中でも『できることはやろう』『何かしなくては』と動いている」と話す。