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アフターコロナの技術者育成とDX

 今後、コロナ禍以前と同じ社会には二度と戻らないといわれており、リモートワークや在宅業務は今後ますます定着し、それとともにDXが加速するとみられている。アフターコロナに向け、2社はどのような取り組みをしていこうと考えているのか。両氏が語ったのは、新しい時代を生きるための人材育成とデジタル活用の重要性だった。

 「『DXとは何だろう』とよく思うのだが、私が大学を卒業して働き始めた当初から、とにかく『ものづくりを効率化するために使えるものは(ITを含めて)皆使う』というのがスタンス」と話すのは、大坪氏だ。

 「由紀精密では、拠点間のリモートでのリアルタイムな情報伝達は結構以前から行ってきたが、われわれだけではなく、日本全体が取り組まなければならないと考える。自社だけのリモートワークではなく、他社ともつながらなければ」と大坪氏は語る。そこではIoTを各社が“現場で”“現場の人たち自身”で活用していくことが必須であり、「まず、IoTに取り組める人材の育成をしていくべきだ」と考えている。

 由紀精密は2020年4月に、慶応義塾大学環境情報学部、ローランド・ベルガー(東京・港)と共に「一般社団法人ファクトリーサイエンティスト協会」を設立。町工場の現場でIoTの仕組みやデータを活用できる人材育成に取り組んでいる。「新たにIoT機器やシステムを開発するのではなく、世の中に既にあるものをつないで現場のために生かせる人材を育てたい」(大坪氏)

現場でIoTを活用できる人材の育成を図る(投映資料の出所:ファクトリーサイエンティスト協会)
現場でIoTを活用できる人材の育成を図る(投映資料の出所:ファクトリーサイエンティスト協会)
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 大坪氏は、宮本氏による溶接リモートワークの実践は「まさに自分の考え方と同じである」と述べる。クラウドの生産管理システムや家庭用溶接機など、自社にもともとあったIoTの仕組みをうまく活用して実現した取り組みであるためだ。

 溶接は人の感性が大事になる作業であるため、その感性を妨げる要素は極力避けるべきであり、作業指導や指示であってもその妨げになってはならない。宮本氏は「技術教育の場では、IoTの機材を自然に使いこなして作業できる環境が必要」と述べる。

 溶接技能の指導については、従来は「誰かが作業を実際にやってみせて、それに対して口頭で説明する」(宮本氏)しかなかった。溶接機械の調整も、ダイヤルを回して設定するなどアナログな作業である。そこにうまくIoTやデジタルを挟んで作業や理論を可視化すれば、学習に効果的なのではないかと、宮本氏はコロナ禍以前から考えてきたという。

 例えば、リモートワークで用いた機材と同様に、作業者目線のカメラ映像を見て、データを取りながら学習する仕組み。これからの溶接職人の育成と共に、彼らの働く場所や機会の制限を取り払い、内職リモートワークの実現にもつなげられる可能性もある。

溶接指導にデジタルを取り入れる(投映資料の出所:Creative Works)
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溶接指導にデジタルを取り入れる(投映資料の出所:Creative Works)
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溶接指導にデジタルを取り入れる(投映資料の出所:Creative Works)

 「溶接作業の習熟においては、金属がどう溶融しているか、どう溶融させるかを作業者がどれだけ早く理解できるかが重要だが、従来の教え方では結構な時間がかかっていた。それが、(目線カメラ映像なら)『習得しやすい』と確認できている」(宮本氏)

 デジタルでの技術教育について宮本氏は、「“勘・コツ”なのか“理論・数値”なのか、教えるにはアナログとデジタルのどちらを用いるべきかの見極めも必要である」と課題を述べた。