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 理化学研究所計算科学研究センターの松岡聡センター長は2020年10月15日、オンラインで開催された「日経クロステック EXPO 2020」で「富岳:『アプリケーション・ファースト』の共同研究開発によるSociety5.0に向けたブレークスルー」と題して講演した。理研のスーパーコンピューター「富岳」の開発目標であるアプリケーション・ファーストの重要性や、富岳が中心的な役割を果たすことを期待しているSociety5.0への取り組みについて紹介した。

「日経クロステック EXPO 2020」で講演する理化学研究所の松岡聡センター長
「日経クロステック EXPO 2020」で講演する理化学研究所の松岡聡センター長
(撮影:日経クロステック)
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 演題ともなっている「アプリケーション・ファースト」の意味について松岡氏は「国民が関心のある課題を解決する幅広いアプリを最も有効に、世界一のスピードで動かすことを目的にした」と語った。2020年6月に発表されたスーパーコンピューターの性能ランキングでは、TOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500の4部門で同時に1位という世界初の快挙を成し遂げた。それでも松岡氏は「あくまでもベンチマークで1位を獲ることを目標に開発したのではない」と松岡氏は強調した。

 富岳の開発プロジェクトではアプリケーション・ファーストのほかに、世界で初めて1エクサFLOPS(フロップス、1秒当たり浮動小数点演算回数)以上の演算性能を実現する「エクサスケールマシン」を開発するという目標があった。これら2つの目標を達成したことを示すために松岡氏は「ありとあらゆるアプリケーションで最高性能を発揮するのが富岳の目標だとすれば、ありとあらゆるベンチマークで1位を獲らなければ意味がない。TOP500だけ1位を獲れました、だと使いものにならない。(これらの全ての指標で2位以下の)いわゆるプリ・エクサスケール・マシンに数倍の性能差を付け、富岳が1位を獲ることが重要だった」と語った。

 松岡氏は富岳のSociety5.0への貢献に向けて、富岳を活用したクラウドサービス「FUGAKU Cloud Platform」の準備を進めていると説明する。ユーザー企業は富岳のクラウド機能を直接利用することも可能だが、「我々とユーザー企業の間にクラウド事業者が介入し、従来のIaaSのクラウドよりも高性能のクラウドが必要になった場合は富岳のクラウドの利用に切り替える。富岳のクラウド利用が普及し、富岳の汎用CPUであるA64FXの導入が世界中で進めば、日本の半導体産業の復興につながるのではないか」と松岡氏は期待を込めた。

 理研では現在、新型コロナウイルスのワクチン開発やウイルスの飛沫のシミュレーションなど、様々な研究に富岳を使用している。いずれもこれまでに中間報告を実施しており、それぞれの研究テーマで結果を出している。松岡氏は「(ITを活用して社会課題の解決を目指す)Society5.0において中心的な役割を果たすべく開発した富岳が、早くも活躍を始めている」と強調した。