全3734文字
PR

人々の日々の動きから「幸せな組織」の特徴を発見

 心理学の世界でも20年ほど前からポジティブな思考や幸せをどうやって得られるのかについての研究が盛んになっており、エビデンスに基づく知見が続々と得られるようになってきている。そんな中で幸せとは「甘いものを食べている時」とか「飲み会で騒いでいる時」などといった人々がそれぞれに異なる「手段としての幸せ」のほかに、生化学現象として捉えられる幸せがあると矢野氏は語る。

 「血管の収縮や弛緩(しかん)、血液中のホルモンや免疫物質の変化、呼吸数や発汗、神経系が全て自律的、同時多発的に、皆さんの意思とは関係なく動いている。そのほとんどは外から見えないが、唯一体の動きは外から見ることができ、生化学現象としての幸せを客観的に測れる可能性がある」(矢野氏)

 そこで矢野氏は2006年3月からウエアラブルセンサーを身に着け、14年以上にわたって左腕の動きを記録してきた。「ある4人の1年間の人生を見てみると、Bさんは規則正しく起床して週末に寝だめをしている、Cさんは柔軟な人生を選択しているようでいて通勤と昼休みと退勤は誰よりも規則正しいなどが分かる。腕の動きという一つひとつのデータに意味はないが、集めてパターンを見ると意味が出てくる。それ以来、さまざまな会社、業務、業種、学校、病院などで、ミリ秒レベルの3次元の体の動きを、延べ1000万日を超えて計測してきた」(矢野氏)

[画像のクリックで拡大表示]

 客観的な体の動きのデータとアンケート調査などを組み合わせた結果、「幸せで生産的な組織には非常に統一的、普遍的な特徴があることが分かった」と矢野氏は語る。それが「つながりが均等」、「5分間会話が多い」、「発言権が均等」、「会話中に体がよく動く」の4つだ。

 「ハッピーな組織ではそうでない組織よりも、フラットにいろんな人がつながりあっており、毎日のように5分、10分の短い会話が本当に必要なときに発生している。組織とはいつも誰かに評価される場で、何かを言い出すときには『こいつ分かってないな』と思われる危険が常に伴う。これを避けるのは非常に簡単で、沈黙することだ。そうなると、定例会議のときだけしか発言がないようなアンハッピーな組織になる。上司や、よくものを知っている人だけが発言するなど、発言権に格差があるのもアンハッピーな組織の特徴だ。ハッピーな組織は均等に平等にいろいろな人が発言できるが、そこにはダメな奴だと思われないだろうという『心理的安全性』もある。4つめの『会話のときに体がよく動く』というのは一番分かりやすい。相手に体の動きで応えるとき、必ず体が動く」(矢野氏)

 幸せに関するアンケートを取り、これらの4つができている組織との相関関係を見たところ、相関係数が0.94に上った。つまり「いちいちアンケートを取らなくても、データでこの人たちが幸せな集団かどうかが分かる。さらに分かるのは、『幸せ』には人間関係が非常に重要だということだ。そこで我々は、アンケート使わずに体の動きを計測し、その組織の生産的が高いか、幸せの組織かを測る物差しとして『ハピネス関係度』を生み出した」(矢野氏)

[画像のクリックで拡大表示]

 例えば商材を電話で売り込んで注文を取るコールセンターの場合、売り上げの多い日はハピネス関係度が高く、いい関係性を築けていることが分かる。店舗でも開発プロジェクトでも同様に、「ハピネス関係度が高い日にはお金を生んでいる」と矢野氏は語る。