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自動化が進むマスク製造、 1ラインを1.5人でカバー

国内で稼働しているマスクの生産工場
国内で稼働しているマスクの生産工場
機械は中国の設備メーカーから導入した。同社が培ってきた自動化の技術が注ぎ込まれている(出所:アイリスオーヤマ)
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 外から見ると迅速かつ的確に見えたマスク生産の国内回帰であるが、大山社長によればそこまでスムーズに進んだわけではない。まずは中国・武漢市で新型コロナウイルス感染症の流行が確認されてすぐの1月にはマスクの生産拡大を決断。感染力の強さから世界的な感染拡大の可能性が見えてきた頃には中国当局の輸出規制が始まり、日本を含めた他国へ向けた出荷を増やせない状況になったという。

 急激なマスク需要の高まりにより原材料の値動きが荒く、中国以外に生産拠点を分散させるなどのリスクヘッジを検討し始めた。そのタイミングで日本政府から「マスクの生産を国内でできないか」という補助金の交付も含めた打診があり、それが国内生産の実現を後押しした。

大山社長(日経クロステック EXPO 2020の講演動画)
大山社長(日経クロステック EXPO 2020の講演動画)
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 ちなみに同社がマスクの生産を始めたのは07年とかなり古い。当初の生産工程では手作業が多かったが、自動化やロボットとの連動などを徐々に導入。生産設備も自らが設計し、設備会社に発注して改良を続けてきた。今では1つの生産ラインを1.5人で賄う見込みが立っているという。厳重な衛生管理が必要なマスクの生産において、省人化は有利に働く。

 マスクの国内生産に向けては、築き上げられた中国の設備会社との太いパイプも生きたという。中国工場で培ったノウハウが込められた製造機械をいち早く導入できた。

 マスク不足の際には材料不足と価格高騰が起こった。フィルター効果を持つ中間層と、表面の不織布のどちらもが供給不足に陥ったのだ。同社中国工場ではもともと、そのどちらも約50%を自社で賄う体制を持っていたが、全量の内製化を推進。国内工場でもマスク原材料の100%自給を目指して追加の投資を行っているという。

現地生産で「プレミアム感」という価値を付加

アイリスオーヤマ フランス工場
アイリスオーヤマ フランス工場
2020年11月にはフランスのほか米国と韓国でもマスクの現地生産を始める予定だ(出所:アイリスオーヤマ)
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 あれだけ騒がれたマスク不足も夏以降は落ち着き、市中では今度は供給過多で投げ売りされるケースを見掛けるようになってきた。しかし、「絶対量の不足は解消されたが質への訴求はある」と大山社長は動じていない。

 ここでいち早く国内生産へと切り替えた同社の施策が生きてくる。マスク不足を見越した海外での粗製乱造が報道されたことも後押しし、市場が飽和したように見える現在も「国産」が商品価値につながっている。

 マスクの生産を消費国へと移す同社の施策は日本だけにとどまらない。同社が生産拠点を持つ米国、フランス、韓国でも整備を進めている最中で、10月末から11月始めには現地生産を始めるメドが立っているという。

 大山社長によれば、これには3つの側面があるとのこと。まず第1に安定供給。中国での一貫生産は効率が良いものの、今回のコロナ禍のように事故や事件によってサプライチェーンが混乱する危険をはらむ。現地生産は危機に対応がしやすい。

 第2に製造コスト。中国は人件費こそまだ安いものの上昇傾向にあり、また物流コストも同様に年々上がって来ている。トータルで見ると、もはや「現地生産は製造コストが高い」と言えなくなってきているという。

パッケージにしっかり「日本製」と書かれたアイリスオーヤマのマスク
パッケージにしっかり「日本製」と書かれたアイリスオーヤマのマスク
自国生産は消費者に安心感を与え、他より高い値付けでの販売が可能になるという(出所:アイリスオーヤマ)
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 そして大山社長は第3に、マーケティング的な意味合いを掲げた。「ユーザーは現地生産された商品にプレミアム感を抱く」というのだ。現地生産を理由に価格を高めに設定しても受け入れられるなら、コストが多少かさんでも相殺できる。