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 「残念なことに、未来は誰にも予測できない。ただ幸いにも、この条件は誰にも共通している」。

 2020年10月12日にオンラインで開幕した「日経クロステック EXPO 2020」(開催期間は10月12〜23日)では、2030年ごろのポスト・パンデミック(世界的大流行)社会に向けた3つのシナリオが紹介された。新型コロナウイルスがもたらしたパンデミックからの復興の進み具合を中心に描いた、グローバル社会の未来シナリオである。シナリオを描いたのは米国のシンクタンク、SRI Internationalの研究機関であるStrategic Business Insights(SBI)。同社のバイスプレジデント、インテリジェンス・エバンジェリストである高内章氏が講演した。

Strategic Business Insightsのバイスプレジデント、インテリジェンス・エバンジェリストである高内章氏
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Strategic Business Insightsのバイスプレジデント、インテリジェンス・エバンジェリストである高内章氏
(撮影:日経クロステック)

 「戦略を立案する中で将来を予測する際、1点だけの予測に絞ってしまうケースが多い。ただ残念ながら、それらはほぼ100%、当たらない」と高内氏は説明する。そこでとられている手法が、シナリオプランニングである。

 同社が描いたシナリオは、(1)パンデミックからの復興に難航する社会(Tough Transition)、(2)GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)などのテック企業が復興をけん引する社会(Big-Tech World)、そして(3)中国が世界をリードする社会(The Chinese Century)の3つ。様々なデータに基づいた予測からSBIが導き出した、いわばパラレルワールドである。

 シナリオを3つ描いているのは、冒頭に触れた、未来は予測できないという考え方に基づく。SBIは、技術、社会、政治、需要など32の分野でSBIが捉えたトレンド、消費者の価値観分析などに基づいてシナリオを導き出した。まず、2030年のビジネス界にとって重要と考えられる数百項目の事象を抽出し、そこから今の社会に影響を及ぼし得る約50の「力(フォース)」を選択。これらをパンデミックからの復興意識、社会的行動、技術進化の3つの「不確実性の軸」に基づいてクラスターに整理し、可能性が高そうなシナリオに絞り込んだ。

 「軸」についてもう少し具体的に説明すると、復興意識の軸は、復興が偏在的にしか進まない社会か、広くあまねく進めようという指向性を持った社会か。社会的行動は、進取の気性を持った社会と周囲の意見に受動的な社会。技術進化は、劇的・不連続に変化するか、ロードマップにのっとって徐々に変化するか。これらの組み合わせによる8つのパターンのうち、パラレルワールドとして区別できそうな3つを、未来シナリオとして選んだ。

 第1のTough Transitionは、新型コロナのパンデミックからの復旧に難航し、2025年を過ぎる頃まで苦しい経済状況が続くというシナリオだ。その中でグリーン政策を打ち出す欧州がいち早く立ち直り、世界がそれについていくというものである。

 2つめのBig-Tech Worldは、GAFAを中心とした国際的テック企業の力がますます強まり、テック企業がスマートシティの実現という形で支援する地域で、復興が先行していくというシナリオである。GAFAの影響力が強いことは、ほぼ今の延長として想像できるため、3つのうちで一番イメージしやすいシナリオといえる。

 一方で、想像に難くはないものの一番印象的なのがThe Chinese Centuryだろう。中国の復興が先行し、これに伴って技術的、経済的、そして政治的に中国が世界をリードしていくというシナリオだ。

 重要なのは、どのシナリオが当たるかではない。目指すべきは、それぞれのシナリオの背景にある事象を理解し、実際の社会がどんな展開になっても対応していける戦略と体制を築くこと。「自分たちの戦略をシナリオに照らし合わせて、自分たちがどのような強み・弱みを持つかを理解するとともに、強みを伸ばしていくように戦略の発想を広げることが大切だ」と高内氏は強調する。