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 三菱ケミカルホールディングスは、デジタルトランスフォーメーション(DX)に積極的な企業として知られています。2017年にはDXの専門部隊である「デジタルトランスフォーメーション(DX)グループ」をいち早く立ち上げ、現在は浦本さんがCDO(Chief Data Officer)として取り組んでいます。

ストックマーク 代表取締役CEO 林 達 氏
ストックマーク 代表取締役CEO 林 達 氏
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三菱ケミカルホールディングス 執行役員 Chief Digital Officer 浦本 直彦 氏
三菱ケミカルホールディングス 執行役員 Chief Digital Officer 浦本 直彦 氏
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現場の発想力を養成するのも重要なミッション

浦本 立ち上げ当初は10人程度だったDXグループも、現在は30人近いチームとなりました。傘下の4つの事業会社、三菱ケミカル、田辺三菱製薬、生命科学インスティテュート、大陽日酸の各社でも、DX推進組織や担当者によって、それぞれの施策を展開しています。グループ企業のDX組織とも連携しながら、前進を目指しているところです。

 具体的な取り組みは3つのポートフォリオで構成されています。

 1つ目はデータを活用した、工場を含む現場業務の自動化・最適化。2つ目は、デジタル技術の活用を通じた新たなビジネスモデルや顧客価値を提供するソリューションの創出。3つ目が世界を変える可能性のある技術の取り込み。量子コンピューティングやデータサイエンスを使って新素材を発見するマテリアルズ・インフォマティクスなどが含まれます。

感性や役割に応じて教育プログラムを3階層に

 人材育成にも注力しています。

浦本 DXの必要性を社内に発信した後の現場の行動を想像してみましょう。おそらく、多くが書籍や雑誌などを開く。そこにはDXについて「ビジネスモデルの変革」や「イノベーションの創出」といった言葉が並んでいる。どうでしょう。果たして、現場はDXを“自分ごと”として捉えるでしょうか。

 私たちが育成したいのは、もっとDXを身近に考えられる人材です。

 日々の業務のどこにデジタルを適用すれば生産性が上がるとか、どんな新しいことが可能になるとか、身近なところにDXのネタは転がっている。そういう想像、あるいは妄想を膨らませることができるようにするためのサポートが大切です。

 これまでのデジタル活用は、個人の資質に負うところが大きかった。ツールを使った情報収集1つとっても、デジタル的な感性やノウハウは属人的なもので、個人差がありました。

 結果として、DX部門が積極的に動いても、事業部ではなかなか浸透しない。DXの推進を目指す企業が直面する課題の1つの要因がこれでした。

浦本 2020年1月から開始した「Digital University」という教育コースでは、受講対象者を上下3階層に分けました。トップの層はPythonなどのプログラムを書いて、データサイエンスを利用する層。真ん中が、プログラムは書けないまでもノンプログラミングツールを使ってデータサイエンスに取り組める人たち。一番下が一般社員のレイヤーで、DXの基礎をeラーニングで講習してもらいます。

 全員がその時点の感性やスキル、役割に応じたプログラムを受けられることで、裾野を拡大しているのですね。

必要なニュース記事をAIが判断して配信する

浦本 ストックマークのナレッジシェアサービス「Anews」も、従業員や組織のデジタル感性を高めるツールとして、現場で広く利用しています。人材育成という観点でも貢献してくれています。

 Anewsは、最先端の人工知能(AI)を用いて、情報収集と情報共有をサポートするサービスです。国内外の3万に上るメディアの記事を網羅し、ユーザーが必要とする記事をAIが推測して配信しています。収集した情報は、メンバー間でシェアできるようになっており、組織として情報感度を高められるほか、共有したニュースにメンバーがコメントを付けて、意見をやり取りするという活動を通して、情報を知識や知恵に昇華させるためにも役立ちます。2017年のリリースから現在までに、1500社以上が利用しています。

在宅勤務によって希薄化した一体感の再醸成にも効果

浦本 今回のコロナ禍によって、当社も急転直下でテレワークが進み、私のチームも現状ほぼ全員が在宅で業務に当たっています。現在の環境で課題だと感じているのが、チームとしての一体感が希薄になりがちだという問題です。

 社内SNSなどを積極的に使いながらメンバー間のコミュニケーションの頻度を意識的に高めるような手を打っているのですが、ここでもAnewsが力を発揮してくれています。配信・共有されたニュースについての意見交換なども活発で、組織の一体感を改めて醸成していく上で効果的に機能しています。

 メンバーが自然と新しい発想ができるようになったり、オープンなコミュニケーションが進んだり、行動変容が生まれるプロセスがDXの推進には非常に重要です。Anewsが貢献していると聞き、うれしいですね。

 今後もAnewsだけでなく、我が社ならではの自然言語処理を生かした各種ツールを提供し、従業員や組織の情報感性の底上げという側面からDXの取り組みを支援していきます。

本記事は2020年8月26日~28日にオンライン開催された「IT Japan 2020」のリポートです。