全2498文字
PR

 新型コロナウイルス感染症の拡大が長期化するなか、ウィズ・コロナ、その先のポスト・コロナで社会・経済活動を止めずに維持するためには、デジタル技術の活用が不可欠です。

[画像のクリックで拡大表示]

「より良い社会」を勝ち取るためには、大学の機能を拡張し社会変革の原動力にすべき

 2016年9月から議員を務める未来投資会議では、インクルーシブ(包摂的)でサステナブルな未来社会「Society 5.0」実現のために今何を行うべきか議論してきました。デジタル革新がもたらした様々なサービスは、その後のコロナ禍の社会経済活動における生命線になりました。Society 5.0はポスト・コロナの方向性としては正しかったのです。しかし日本はまだSociety 5.0 Readyではなく、新型コロナ克服のためにも、スマート化の加速は急務です。

 デジタル革新により、モノが価値の中心を担う資本集約型社会から、知識・情報やそれを活用したサービスが経済的価値の中心になる知識集約型社会へパラダイムシフトしています。スマート化を活用し、Society 5.0を実現できれば、多様性を尊重し個を生かす社会が実現します。データ独占によって格差が致命的に拡大する「デジタル専制主義」という負のシナリオに陥らずに、日本は政・産・官・民・学で連携し、世界を先導して強い意志をもって「より良い社会」を選び取ることが必要です。

 そこで重要な役割を担うのが大学です。大学は「より良い社会」を考えるための人文知や社会科学への深い理解と知見を蓄積し、多様な知を支える人材を育成しています。知が付加価値の源泉となるSociety 5.0実現のためには、大学の機能を拡張し、社会変革を駆動する原動力とすべきです。Society 5.0では、リアルな空間とデータが行き交うサイバー空間が高度に融合します。地球環境をサステナブルにするためには、データの効果的な活用が必要ですが、サイバー空間は現在、人類全体の共有地としての整備が進んでいません。本学が日本の国際ルール作りのサポートを進める、自由なデータ流通(DFFT: Data Free Flow with Trust)の実現は特に重要です。2005年より本学が世界的研究拠点となり取り組むサステナビリティ学を踏まえて、サイバー・フィジカル両空間を一体としてコモンズと捉え、地球環境を守り育てる「グローバル・コモンズ・センター」を本年8月に設立するなど、具体的に動き始めています。

より良い社会を勝ち取るための未来社会協創、経済好循環の駆動

 国連が2015年に定めたSDGsを活用し、その17の目標に貢献する様々な活動を可視化して学内外に発信するため、2017年6月、「未来社会協創推進本部(FSI)」を総長直下に設置し、既に200余りのプロジェクトが登録されています。

 より良い社会を実現するには、経済好循環の駆動が重要です。起業家やスタートアップ企業の支援は社会課題解決につながります。東大関連ベンチャーは400社を超え、すでに17社がIPO(新規上場)した一方、研究分野の強みと比較すると、創業分野の偏りが課題です。

 「より良い資本主義」への機運が高まる中で、大企業との連携を通じて大学が新しい経済メカニズム創出のトリガーをかけられると考え、「産学協創」を始めました。従来の産学連携は小規模で、大学の生む知の価値は過小評価されていました。産学協創は、東大の広範な学知の価値と企業の広汎な資源を組織対組織で連携し、共通ビジョンの策定から始め、大型資金を投入して大きなシナジー効果を生みます。「空気の価値化」というビジョン策定から始まったダイキン工業との連携は、10年間で100億円以上の規模です。ほかにも日立製作所、NEC、日本IBM、三井不動産、日本ペイントとも産学協創をすすめています。

SINETを核としたデータ利活用戦略、先行投資財源を確保する大学債の発行

 全国900以上の大学や研究機関を超高速でつなぐ、国立情報学研究所(NII)が運営する学術情報ネットワーク「SINET」は、全都道府県を100GBPS以上の高速の光ファイバー専用回線網でつなぐ、世界最高品質の情報インフラです。文部科学省が進めるGIGAスクール構想を発展させ全国3万6000の小中高校につなげば、日本列島全体を「デジタルアイランド化」でき、大学が中心となり高品質なデータをセキュアな専用回線で提供できれば、医療や災害のビッグデータ分析をリアルタイムで実施できるなど、社会インフラとして価値があります。そのデータ処理のための半導体の高度化や、5G・Beyond 5Gによるモバイル環境の高度化も重要な戦略です。

 本学では台湾の半導体メーカーTSMCと包括連携して、日本のメーカーが最先端の半導体を設計・製造できるゲートウェイを構築しています。加えて本年7月には、IBMと本学の連携を通して量子コンピュータ利用を進める量子イノベーションイニシアティブ協議会も設立しました。いずれも大学を通して企業が最先端技術を活用できる新しい仕組みです。

 他にも大学の役割を拡張する仕組みを開発しています。ソフトバンクと開設した人工知能(AI)の研究機関「Beyond AI 研究推進機構」は、大学と企業とのジョイントベンチャーの迅速な設立を可能にするCIP制度を活用することで、大学が提供する研究成果のリターンをストックオプションなどで得ることが可能となりました。

 新たな活動には先行投資が不可欠です。6月の政省令改正で、大学全体の収益で償還するコーポレートファイナンス型の大学債の発行が可能になりました。10年で1000億円規模を目指し、まずは40年債で200億円の調達を検討中です。

 アベノミクスによって生み出された民間や個人の資金の投資先に大学がなることで、日本に新たな資金循環を生み出し、未来型のより良い経済システムが創出されることを期待しています。

本記事は2020年8月26日~28日にオンライン開催された「IT Japan 2020」のリポートです。