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 GCAは、M&A(合併、買収)を専門とする独立系グローバルアドバイザリーファームです。厳選されたプロフェッショナル人材によるコンサルティングとM&Aのアドバイスを行っています。いまや、企業のDXにおいてM&Aは必要不可欠なものになりました。GCAでもその機会が増えています。M&AでDXを加速した2つの事例を説明します。

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事業戦略と財務戦略は表裏一体 掛け合わせで、DXを加速できる

「我々はもはや製造業ではない」 変革に成功した独シーメンス

 シーメンスは、積極的なM&AによってDXを加速しています。2007年度の事業ポートフォリオは、産業・社会基盤、メディカル、発電・送配電、IT・通信サービス、照明ほかの5つでした。それから、2019年度にかけて産業・社会基盤の領域をコア事業と定義して、その強化のために企業買収を進める一方、ノンコアと判断した事業は売却しました。近年では、メディカル事業と発電・送配電事業もそれぞれ分社化し、同社の持ち株比率を減らす意向を表明しています。

 産業・社会基盤の領域で、シーメンスは、複数のソフトウエア企業を買収して、新たな技術やソフトウエア製品、顧客、デジタル人材を獲得しました。また、PLM(製品ライフサイクル管理)事業のトップに、買収したIT企業の幹部を登用するなど新たな人材の力を生かしました。同社が構築した産業用IoTプラットフォーム「マインドスフィア」は、ドイツが国を挙げて推進している「インダストリー4.0」の主要な部分を担っているといわれます。CEO(最高経営責任者)のジョー・ケーザー氏も、メディアのインタビューに対して「我々はもはや製造業ではない。ソフト会社の世界大手でもある」と語っています。

デジタルの力を活用して業界の捉え方も再定義する

 シーメンスの取り組みから得られるのは、「自社が勝てる立地」、すなわち得意領域に投資を集中することの重要性です。非採算事業、あるいは黒字の事業であっても得意領域でなければ、ときに躊躇なく売却し、選択と集中を加速する。強い部分をさらに伸ばすのがDXのポイントといえます。

 さらに同社は、事業ポートフォリオ改革の過程で、業界の捉え方を見直しました。「社会にどのような価値をもたらすのか」「顧客がどんな体験を得られるのか」といった視点で各事業を捉え直し、整理・再編したのです。

 この業界の再定義は、デジタルテクノロジーによって推進され、ほとんどの業界で進行しています。同社は自らそれを主導することを選択し、存在感を高めました。

デジタルイノベーションを実現するM&A

 もうひとつ日本企業の事例も紹介します。栗田工業は、2018年にシリコンバレーのベンチャー企業であるFRACTAを買収しました。米国では老朽化した水道管の破損・漏水事故が深刻な社会問題になっています。FRACTAはその解決に向け人工知能(AI)を活用した水道管の劣化予測ソフトウエアサービスを展開しています。この買収によって、栗田工業は、水と環境分野での新たなデジタルビジネスに進出しました。そして2020年、両社は水処理におけるデジタルトランスフォーメーションとAI・IoT製品の開発を行う「メタ・アクア」プロジェクトを立ち上げました。このように、M&Aによって、デジタルイノベーションを一気に実現する例がみられます。GCAが実施した経営者アンケートでは、デジタル化のためにM&Aを活用すると回答された方が34%いました。それらの方にM&Aの狙いを聞いてみると、50%の方が「新たなデジタルサービスの獲得」と回答しました。

DXを推進する上で不可欠なバランスシートを俯瞰する経営

 両社がM&AによってDXを加速できたのはなぜでしょうか。要因は、事業戦略と財務戦略を統合的に把握して、戦略を立案・実行したことにあると分析しています。

 当社では「バランスシートを俯瞰する経営」と呼んでいます。バランスシートにはご存じの通り、借方と貸方があります。借方の論点は「事業ポートフォリオ改革」や「顧客との関係管理」「ビジネスモデルの構築」「テクノロジーマネジメント」などの事業戦略。貸方は「資本政策」「投資家との関係性管理」「M&Aの活用」「キャッシュフローマネジメント」などの財務戦略を論点とします。

 これからは両方を俯瞰して戦略を立案できる人材/体制が求められます。事業戦略と財務戦略を表裏一体で考え、互いを掛け合わせながら経営を舵取りすることで、M&Aを含めたDXの推進が可能になるのです。

 GCAは、事業ポートフォリオ改革の構想、事業立地の選定といった戦略策定から、M&Aターゲット企業候補のリストアップ、具体的なディールの支援まで、コンサルティングとファイナンシャルアドバイザリーを一体のサービスとして手掛けています。企業のDXを加速させるため、バランスシートを俯瞰する経営の具現化を支援します。

本記事は2020年8月26日~28日にオンライン開催された「IT Japan 2020」のリポートです。