「これまでウエアラブル端末は健康のために体を動かしてもらうためのものだった。新型コロナウイルス感染症の流行もあり、現在は『身に着けることでどのように自分の命を守るか』ということを考える時期にきている」(米FitbitのCTOを務めるEric N.Friedman氏)――。
ウエアラブル端末はこれまで、健康増進に関心の高い利用者が毎日の歩数や心拍数、睡眠状態などを把握するために身に着けるものだった。それがここ数年で、疾患の早期発見につなげる「アラート」を発する役割や、治療の予後を良好にする「フォロー」の役割を担うものに変化しつつある。個人に合わせた生活習慣などのアドバイスにより、疾患の発症を遅らせることを目指す研究も進んでいる。ウエアラブル端末は「健康増進」だけでなく「命を守る」ものへと進化しつつある。
先行するのが、利用者に「アラート」を発し疾患の早期発見につなげる取り組みだ。⽶スタンフォード⼤学が2019年11⽉、⽶Apple(アップル)の「Apple Watch」が不整脈の⼀種である⼼房細動を検知するのに役立つと発表し、ウエアラブル端末の役割の変化を印象付けた。Apple Watchの光学センサーで心拍を計測したもので、心電図機能は利用していない。その成果は著名な医学系論文誌である「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に発表され大きな話題となった。
心房細動は心臓の心房部分が不規則な電気信号によって震えるように動くもので、胸の不快感や痛みなどが表れることがある。血液の塊である血栓ができやすくなるため、脳梗塞の原因の3分の1を占めるともいわれる。心房細動を早期に見つけて治療できれば、脳梗塞を予防することにもつながるというわけだ。
心房細動を見つけるスタンフォード大の研究は「Apple Heart Study」と呼ばれており、Apple Watchに搭載された心拍センサーとアルゴリズムで心房細動が疑われる不整脈を検知できるかを検討した。Apple Watchは光電式容積脈波記録法(フォトプレチスモグラフィー)と呼ぶ方法を用いて手首の血流量から心拍数を測定する。センサーに赤色の血液に吸収されやすい緑色LEDを搭載。心臓が鼓動を打ち手首を流れる血液が増えると緑色の光が多く吸収され、鼓動と鼓動の間は光の吸収量が減る。LEDを毎秒数百回点滅させながら1分間の心拍数を計測し、心拍間隔の変動が規則的かどうかを分類することで、不整脈を検知する。