これまで自治体が施設や担当課ごとに行っていた電力調達・電気料金支払業務を効率化し、削減できた費用分をまちづくりに生かす新しい官民連携の取り組みが広がっている。包括的にまちづくりを担う取り組みは、ドイツの「シュタットベルケ」を連想させる。人口減少に直面する日本は、こうした新しいまちづくりモデルを貪欲に取り入れていく必要があるだろう。
千葉県富里市は2021年1月、市とアジア航測、綜合警備保障(ALSOK)が出資者となって特別目的会社(SPC)の合同会社とみさとエナジーを設立した。公共施設の電力をいわゆる新電力会社から一括購入することや、電気料金支払業務を集約することなどで費用を削減。その一部を市の課題解決に充てる。合同会社は、公共施設の維持管理、防災・減災、低炭素化、まちづくりなどの事業も手掛ける。SPCへの出資額は計150万円で、3者が等分に負担した。
とみさとエナジーの主な事業は、以下の通りだ。
- 電力調達などの事務に関する事業
- 公共施設などの維持管理に関する事業
- 防災・減災に関する事業
- 低炭素社会実現に関する事業
- 持続可能な開発目標(SDGs)の取り組み促進に関する事業
- まちづくりに関連する事業
年間で1000万円超を充当
富里市の説明によると、市庁舎を含めた公共施設の電気料金は年間で1億2000万円を超え、重い負担となっていた。これが新たな官民連携事業によって、年に1800万円ほど削減できる。このうち合同会社の運営費などを除いた約1100万円を、まちづくりなどに充てる計画だ。事業期間は26年3月までの5年間。アイデアは市の公募に応じたアジア航測とALSOKから寄せられた。
市は、官民連携のオープンイノベーションによって生み出された「県内初」の仕組みだと評価する。選ばれたアジア航測は、同社の行政支援に関する技術力とALSOKの防犯・防災のノウハウを掛け合わせ、地域課題の解決につながるまちづくり事業を共創し、市民サービスの向上や持続可能なまちづくりに貢献するとしている。
非常に興味深い取り組みだが、実は全国では2例目。「全国初」とされるのは東京都東村山市の取り組みだ。市とJXTGエネルギー(現ENEOS)、そして富里市でも登場したアジア航測の3者が40:35:25で計75万円を出資し、東村山タウンマネジメント株式会社を20年4月に設立している。富里市のケースと同様に、公共施設の電力を新電力会社から一括で調達したり、電気料金支払業務を集約化したりすることなどで費用を削減。その削減分を市の課題解決に充てる。このアイデアは19年に市が実施した民間事業者提案制度で採択された。
新電力会社からの電力調達と聞けば、21年1月の卸電力市場価格の急騰の影響を心配される向きもあるだろう。確認してみたところ、富里市も東村山市も、それぞれの新電力会社との契約内容から、影響はほとんどないとのことだった。