海外ではインフラに関係する国家間の争いが相次いで表面化している。日本にとっても対岸の火事とはいえない。コンセッション事業や再生可能エネルギー発電事業に外国資本が入ることで、意図せぬトラブルが起きる恐れもある。社会基盤の安全を保つことは、国民に脅威が及ぶことを防ぎ、国益を守ることにつながる。今こそ「インフラ安全保障」の議論が必要だ。
欧州連合(EU)離脱後の英国が、漁業権を巡ってフランスと対立している。舞台はイギリス海峡にある英王室属領のジャージー島だ。報道によると、ジャージー島の自治政府が外国漁船に対する操業規制を強化。これに反発したフランスの漁船が抗議行動を起こし、監視のために両国の軍艦が出動する騒ぎになった。
そして驚くべきは、フランスの海洋相が島への電力供給を遮断する可能性を示唆したことだ。ジャージー島はフランス側からわずか20kmの沖合にあるため、電力は海底ケーブル経由でフランスから供給を受けている。ジャージー島にとっては、重要インフラを外国に握られている弱みにつけ込まれた格好となった。
オーストラリアは一帯一路の協定を破棄
中国による「一帯一路」政策の火種もくすぶっている。一帯一路は、アジアと欧州を陸路や海路でつなぐ物流ルートを築き、経済成長を実現しようという構想だ。拠点となる港湾や、原油・ガスなどのパイプラインも重要な構成要素となる。
オーストラリア政府は2021年4月、同国のビクトリア州が中国と結んだ一帯一路構想に関する協定を無効にすると発表した。オーストラリアの地方政府が15年に中国企業と結んだダーウィン港の賃借契約についても、安全保障上の観点から利用制限を含めた見直しを検討しているという報道があった。ダーウィン港は米海兵隊が巡回駐留する安全保障上の要衝で、当時から米国はこの契約に不快感を示していたとされる。
空港を巡る外資規制論争
翻って日本はどうか。古い話だが、07年に豪投資銀行マッコーリーのグループ企業が、羽田空港ターミナルビルを運営する日本空港ビルデングの株式を買い増した際に、外国資本の規制を巡る論争が起きた。これを受けて国は、「空港インフラへの規制のあり方に関する研究会」を立ち上げ、08年に報告書をまとめている。
報告書には、羽田空港は国が設置・管理していることを前提に、空港ビル会社に対して「新たに資本規制を課すべきでないとの意見が過半数」と記された。国が厳正に規律・監督している、上場以来資本規制がなくとも特段の問題は生じていない、新たに資本規制を課すことは「後出し規制」となって既存の株主の権利を侵害する恐れがある――などを理由に挙げている。
一方で、支配株主が現れる恐れが現実的にあり得る、「後出し」でも規制を導入する必要があるとして、「資本規制を課すべきとの意見も複数」と記述。その先の判断は政府に委ねられたものの、これまでのところ明確な動きはない。
公共が施設の所有権を有したまま、運営を一定期間、民間事業者に委託するコンセッション方式でも、外資規制は俎上(そじょう)に載ることが少なくない。
例えば、関西国際空港と大阪国際(伊丹)空港の運営会社として設立された関西エアポートは、オリックス40%、フランスのバンシ・エアポート40%、地元企業など20%の出資構成だ。バンシの出資割合については、オリックスと地元企業などを足した国内企業の合計を超えないことで、外資参入に反対する意見を抑える意味合いがあったとされる。