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 一部のPFI(民間資金を活用した社会資本整備)事業で、事業選定時にVFM(バリュー・フォー・マネー)を大きく算定し、国などが事業を自ら実施する従来方式よりもPFI方式の経済的な優位性を過大に評価していた可能性がある――。PFI法施行から22年を迎えた2021年5月、会計検査院が「国が実施するPFI事業について」と題する報告書を国に提出した。

 PFIは公共施設の建設・維持管理・運営に民間の資金とノウハウを活用する事業手法だ。政府がPFIを拡大する方針を示すなか、会計検査院の報告をどう受け止め、次に生かしていくべきか。前内閣府大臣官房審議官兼民間資金等活用事業推進室長の石川卓弥氏(野村不動産顧問)と、内閣府民間資金等活用事業推進委員会の専門委員を務める福島隆則氏(三井住友トラスト基礎研究所PPP・インフラ投資調査部長)の2人に語ってもらった。

福島隆則氏(左)と石川卓弥氏(写真:日経不動産マーケット情報)
福島隆則氏(左)と石川卓弥氏(写真:日経不動産マーケット情報)
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まず、会計検査院の報告書を読んだ感想を聞きたい。

福島:PFIの良い点と問題点をあぶり出した、バランスの取れた報告書だと思う。多くのメディアは問題点ばかりを伝えていたが、報告書は民間活用の成果も紹介している。例えば、独立採算型のPFI事業ではコンセッション方式を導入した空港事業で運営権対価などによって国はプラスの収支となり、財政健全化に大きな貢献があった。

独立採算型PFI事業の収支の増加額
独立採算型PFI事業の収支の増加額
金額の単位は億円。会計検査院の報告書を基に日経不動産マーケット情報が作成
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石川:会計検査院はよく調査している。これだけ関心を持ってもらえるのは、国にとってもありがたいことだ。「課題などを明らかにして、今後の事業の改善に生かすことが重要」と報告書に書いてある通り、建設的なアドバイスだと受け止めている。

 ただ、そのメッセージがきちんと伝わるのか、心配な面もある。「VFMがマイナスだったら、PFIをやめたほうがいい」と受け取る人が出てくるかもしれない。国も地方も財政が悪化するなかで、PFIは有効な手段。「PFIに効果がない」と思われるのでは本末転倒だ。

 今後、内閣府がPFIのガイドラインを改定する段階で、改めて会計検査院の考えるPFIとはどういうものなのか、社会に伝えていく必要がある。

「従来方式」と「PFI方式」の公的財政負担額を比べる

 PFIの事業選定に至る判断の仕組みをざっと振り返っておこう。

 国や自治体はPFI導入を検討する際、自ら事業を行う「従来方式」と民間を活用する「PFI方式」との経済性を比較して評価する。具体的には、それぞれの公的財政負担の見込み額(ライフサイクルコスト)を、割引率を使って現在価値に換算して比べる。

 その際に出てくるのが、PFI導入効果の指標であるVFMだ。VFMはPFI方式が従来方式と比べて総事業費をどれだけ削減できるかを示す指標であり、PFI事業における「最も重要な概念」とされる。

VFMの考え方
VFMの考え方
LCCはライフサイクルコストを表す
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従来方式とPFI方式を比べた際のVFMのイメージ
従来方式とPFI方式を比べた際のVFMのイメージ
内閣府の資料を基に日経不動産マーケット情報が作成
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 従来方式は、国や自治体にとって事業期間当初の建設段階に支払いのピークがある。対してPFI方式は、開業後の事業期間にわたって建設費や維持管理費を民間にサービス対価として延べ払いするので、両方式の現在価値は違ってくる。

 割引率が大きいほど、現在価値は小さくなる。ただし、VFMの算定に当たって割引率の数値は具体的に定められておらず、類似施設や同じ事業期間、先行事例、最近の傾向などから、国や自治体がアドバイザーなどと相談して決める。

 会計検査院は今回、国が02~18年度に契約したサービス購入型の65事業を調査。その結果、PFI事業の選定時期における10年国債の利回りを基に、割引率を0.746~1.8%としてVFMを算定した事業が26あった。財務省が契約した公務員宿舎などのPFI事業だ。

 一方、国土交通省などが契約した35事業では、割引率を4%としてVFMを算定していた。同省が04年にまとめた「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針」で社会的割引率を当面4%にすると定めており、この数字を根拠にしたからだ。なお、4%という数字は1983年から2002年までの10年国債の利回りの平均値を基にしている。

 会計検査院は、後者の割引率ではPFI事業の選定時期の金利情勢が十分に反映されていないと指摘。実際は従来方式の方が経済的に有利な事業でもVFMが大きく算定され、PFI方式の優位性を過大に評価していた可能性があるとした。

福島:会計検査院の報告書を読んで、いろいろな解釈がなされる恐れがあるという点では同感だ。報道を表面的に受け止めて、「PFIは使えない」という風潮になるのは日本にとってもマイナスになる。PFIだけでなくPPP(官民連携)も含めて、うまく活用するための前向きな議論につなげたい。

 会計検査院はVFMの考え方に課題があるとしているわけではなく、金利の適用に疑問があることを指摘した。割引率の根拠にする金利をチェリーピッキング(論証に有利な数値だけを採用)して、VFMを無理やり作り出したような事業が見受けられるのも事実だ。なかにはリース方式にしたほうが安く早くできるように思えるものもある。PFIでやる必要のない事業は淘汰されてもいいだろう。

PFI本家の英国では、18年1月に同国の会計検査院がPFI事業を対象とした調査報告書を発表し、割高なPFIがあったことを指摘した。その年の10月には、財務相が契約中のPFIは継続するものの、新規案件にPFIを導入しないことを表明した。これが、日本の会計検査院がPFIを検査するきっかけの1つになったのかもしれない。

石川:英国財務省は、PFIは新たにやらないが、民間資金の活用は重要で、PPPという形で続けていくと言っていた。英国は日本とは状況が異なる。空港のように料金収入が得られるインフラは既に完全民営化しており、コンセッションの入る余地がない。一方、日本はPFIの検討すらしたことがない自治体が大半だ。PPPも含めて民間活用は重要だという認識は日英で共通している。

福島:確かに英国では、その後も民間資金の活用が活発に行われている。それはそれとして、PFIという名の制度があったのは恐らく英国と日本だけで、世界的にはより広範な官民連携を意味するPPPが主流だ。日本がお手本にしてきた英国のPFIが終わった今、PFIは日本だけに残ることになる。「英国でもやっているから」という説明は通じず、「こういう論理で価値があるからやっている」と説明できることが、ますます問われるようになる。