国や自治体など公共施設の管理者に対し、民間事業者が具体的な施設を指定してPFI(民間資金を活用した社会資本整備)事業を提案する「6条提案」。PFI普及の画期的な手法として期待されたものの、実施件数は伸び悩んでいる。提案を受ける管理者側の体制が整っていないことや、民間事業者側へのインセンティブが十分ではないことなどが課題だ。
川崎市は2021年11月、「等々力緑地再編整備事業に関する基本的な考え方」を公表した。市は今後、実施方針の公表や入札などを経て、PFI事業を担う民間事業者を22年10月に決定する計画だ。等々力陸上競技場を球技専用スタジアムに変えるなど、緑地内にある複数の施設を再整備して運営、維持管理してもらう。
市は老朽化した施設の再編などを以前から検討していたが、民間事業者からの提案がターニングポイントとなった。東京急行電鉄(現東急)が19年2月、PFI法第6条に基づき、提案書を市へ提出したのだ。
PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)は、PFI事業を促進するため、民間事業者が国や自治体など公共施設の管理者に対し、具体的な施設を指定してPFI事業を提案できる仕組みを設けている。この仕組みはPFI法第6条に規定されていることから、俗に「6条提案」と呼ばれている。
管理者は提案内容を検討し、結果を遅滞なく通知しなければならない。提案を受けっぱなしにせず、管理者に応答義務を課した点がこの制度の特徴でもある。
東京急行電鉄は等々力陸上競技場やとどろきアリーナ、民間収益施設など、緑地全体を一体的に整備、運営することで、公園の魅力を最大化できると提案。同社の提案を受けて市は19年10月、PFI事業として実施すれば従来の公共事業で実施するよりも公的財政負担を6.9%抑えられると算定した。
一方で、市は提案の妥当性を認めつつ、実現可能性を判断するにはさらなる検討が必要だと通知した。「(都市計画マスタープランなど)各種計画の趣旨を踏まえた提案となっている部分もあるが、個別具体的な機能論では相違がある」「行政計画の変更、ステークホルダーとの合意形成などが必要であり、調整手続きに時間を要する」などと指摘。提案項目の審査結果は、AからCまでの3段階評価で「オールB」にとどまった。
そして提案から3年近くたって出てきたのが、冒頭の「基本的な考え方」だ。これに先立って市は21年11月、PFI事業として実施することを盛り込んだ「等々力緑地再編整備実施計画改定(案)」も公表。市民の意見を募集した。
富山市では600橋の包括管理を民間が提案
富山市では19年11月、パシフィックコンサルタンツと熊谷組、横河ブリッジのグループが「富山市革新的橋梁更新及び包括維持管理PFI事業」の6条提案を行った。市中心部に架かる約600もの橋の包括管理と、1956年に完成した橋長426mの神通大橋(旧橋)の架け替え・維持管理を含む広範な内容だ。いずれも事業期間は25年で、事業費は包括管理が約5%、神通大橋が約24%の削減効果をそれぞれ期待できると提案している。
提案を受けた市は2020年3月、速やかに事業化はできないとの検討結果を提案者に通知した。「提案内容の有効性は十分評価できる」としながらも、さらなる調査・検討が必要だと判断したからだ。
6条提案の管理者側のメリットは、自ら起案しなくても、民間から実施方針を含む提案を無償で得られることにある。しかし、提案を受ければ事業の妥当性を判断しなければならず、そのための評価に手間も費用もかかる。法律には「遅滞なく結果を通知」とあるものの、事業化に向けて速やかに進んでいると言い難いのはこのためだ。
「回答するためには、妥当性を判断するために調査しなければならない。予算が必要だが、これを単費で出すのが困難だ。国土交通省にも尋ねたが、これという交付金や補助金制度が見当たらない。今まで経験がなかったので気づかなかった大きな課題だ」。19年12月に開催された日経地方創生フォーラムで、富山市の森雅志市長(当時)はこのように語っている。