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人々が日常的に利用する“インフラ”となったツイッター。イーロン・マスク氏による米Twitter(ツイッター)の買収は、個人や企業がインフラを私物化するリスクを再認識させた。連想して、公共インフラの民間委託にも同様のリスクがあるのではないかと危惧する声も挙がるが、その心配は無用だろう。PPP(官民連携)やPFI(民間資金を活用した社会資本整備)、コンセッション(公共施設等運営権制度)の仕組みが機能する限り、そうしたリスクは小さくなるためだ。一方、民間インフラでも代替となる他のインフラの選択肢がない場合、その運営には持続性、安定性、公益性など高度な社会性が求められる。インフラ運営者にはその覚悟が必要だ。

 起業家のイーロン・マスク氏によるツイッターの買収が波紋を広げている。通常の企業買収であれば、ここまでの騒動にはなっていなかっただろう。世間が騒ぐのは、ツイッターが既に多くの人々が日常的に利用する“インフラ”となっているからだ。

イーロン・マスク氏(写真右)。同氏が率いる米SpaceX(スペースX)は2022年8月、人工衛星を使ったインターネット接続サービス「スターリンク」の第2世代において、衛星とスマートフォンが直接通信できるようにすると発表した。米通信事業者のT-Mobile US(TモバイルUS)が持つ周波数帯を利用し、2023年後半の試験サービス開始を目指す(写真:T-Mobile US)
イーロン・マスク氏(写真右)。同氏が率いる米SpaceX(スペースX)は2022年8月、人工衛星を使ったインターネット接続サービス「スターリンク」の第2世代において、衛星とスマートフォンが直接通信できるようにすると発表した。米通信事業者のT-Mobile US(TモバイルUS)が持つ周波数帯を利用し、2023年後半の試験サービス開始を目指す(写真:T-Mobile US)
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 この連載が対象にしているインフラは主に実物資産である「ハードインフラ」だが、ソフトウエアや金融システムなどの「ソフトインフラ」も広義のインフラである。時代の進化に伴って、最近はハードインフラよりソフトインフラの役割が増す傾向にある。ツイッターもソフトインフラの一種といえ、インフラである以上は「社会性」が最も重要な要素であることに変わりはない。

インフラの分類例
視点分類
有形と無形ハードインフラ
道路、鉄道、空港など
ソフトインフラ
金融システム、ITシステムなど
役割経済インフラ
道路、鉄道、港湾、空港など
社会インフラ
医療施設、学校、刑務所など
所有・運営主体(日本の場合)公共インフラ
道路、空港、港湾、上下水道施設など
民間インフラ
再生可能エネルギー施設、携帯電話の基地局など
収入の源泉公共が支払うインフラ
一般の道路、文教施設、刑務所など
利用者が支払うインフラ
有料道路、鉄道など
事業段階グリーンフィールドのインフラ
(計画・建設中でキャッシュを生まない)
ブラウンフィールドのインフラ
(稼働中でキャッシュフローが安定)
国の発展度先進国のインフラ
(市場が成熟。政治・法制度などが安定)
新興国のインフラ
(市場が発展途上。政治・法制度などが不安定なことも)
(出所:福島隆則・菅健彦、『よくわかるインフラ投資ビジネス』、日経BP)

 マスク氏は2022年10月にも、同氏率いる米SpaceX(スペースX)がウクライナへ無償提供していた人工衛星によるインターネット接続サービス「スターリンク」を巡って、一騒動を起こしている。

 マスク氏はウクライナ側の要請を受け、ロシアによる侵攻開始直後からスターリンクの通信端末を供与。ウクライナは戦地のネット利用手段として使っていた。ところが、マスク氏が費用を米国防総省に請求していたことが発覚し、強欲ではないかとの批判が一部で噴出。その後、一転して無償供与を継続することになった。

 通信インフラは、現代社会において最も重要視されているインフラ分野の1つだ。日本経済新聞は「マスク氏、衛星通信の無償提供継続へ ウクライナ向け」と題した10月16日付の記事で、「ウクライナ軍にとっての『生命線』ともいえる通信基盤の存続が、マスク氏個人の気分や判断に左右されるリスクが意識されるようになっている」と指摘した。

規律が保たれる官民連携

 一連の出来事は、社会の基盤であるインフラの運営が一個人や一民間企業に委ねられることの危うさを浮き彫りにした。対極にあるのが、公共によるインフラの運営だ。以前からあるインフラ運営の姿といってもいいだろう。しかしこれには、財政赤字や運営ノウハウの不足といった問題が伴う。

 そこで、30年ほど前に欧州で生まれた概念がPPPやPFIである。公共施設の建設や運営を民間に委託することで、安くて優れた品質の公共サービスを提供できるため、日本を含む世界中で活用されるようになった。

 PPP/PFIで重要なのは、完全な民営化ではなく、公共が一定のコントロールを保持している点だ。民間事業者の選定に公募型プロポーザル方式や総合評価落札方式などを導入することで、インフラ運営に不適格な事業者を排除できるばかりか、より良いアイデアを審査して選ぶこともできる。

 民営化と誤解されることの多いコンセッション事業も、正確には“部分民営化”だ。インフラの所有権は公共が引き続き保有するうえ、契約期間が満了すれば運営権は民間から公共へ戻ってくる。民間がインフラを運営する期間中、公共がモニタリングする仕組みは充実しており、規律が保たれる工夫もある。

 事業を包括化して長期間の委託にすれば、スケールメリットによって民間の創意工夫は一層発揮しやすくなり、事業費削減の可能性も高まる。従来の公共による運営と異なり、リスク分担など契約上の取り決めは複雑になるものの、PPP/PFIには官と民のハイブリッドによる相乗効果も期待できる。