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 「最初にすべきはマイナンバーカードをやめること」「これまで丸投げしてきたベンダーは新型コロナ対策に対応できない」――。国や自治体の新型コロナ対策ではサイボウズのクラウドサービス「kintone」の活用が目立った。同社の青野慶久社長は歯に衣(きぬ)着せぬ独自の物言いでデジタル庁への期待を語った(2020年10月6日にインタビューを実施)。

(聞き手は外薗 祐理子=日経クロステック/日経コンピュータ)

青野慶久サイボウズ社長
青野慶久サイボウズ社長
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。1994年大阪大学工学部卒業、松下電工(現パナソニック)入社。1997年8月松山市でサイボウズ設立。2005年4月から現職。(写真提供:サイボウズ、以下同じ)
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デジタル庁に何を期待しますか。

 長い目で見れば、行政のデジタル化を進めるべきだと思っています。ただ最初にすべきは、マイナンバーカードをやめることですね。

 毎年数千億円の予算をつぎ込んでも普及率は2割程度にとどまっています。何のために必要なのかという目的を見失っているから、手段が目的に合致しているのかが判断できません。責任者が誰なのかも不明ですよね。過去20年間のIT行政の敗因がマイナンバーカードに凝縮されているように見えます。

 うまくいっていないのに、やめるという選択肢を持っていないのはおかしい。アジャイル開発では「おかしいな」と思ったらすぐにやめて、別のやり方を考える必要があります。ちゃぶ台返しをするなら、デジタル庁を立ち上げる今しかないと思います。

自治体の意見と職員を入れよ

国と地方を通じたシステムの標準化についてはどう考えますか。

 ぜひ進めるべきです。ただ、自治体の意見を聞かずに中央でフォーマットを勝手に決めてしまい、自治体が「それでは現場の実態に合わず仕事しにくい」と言って自分たちで別のフォーマットをつくるような事態にならないかと懸念しています。

 現場のことを分からない中央の人間が号令をかけたところで、現場の人間が大変な思いをするだけ。根底にある問題はマイナンバーカードをやめられないのと同じだと思います。その意味で、デジタル庁創設で挙げている政策上の優先課題については賛同できる部分もありますが、本当にできるのかという点については疑問がありますね。

デジタル庁にはどんな人材が必要だと思いますか。

 民間人を起用するのもいいですが、地方行政について詳しい民間の人が選ばれなければ、中央からの押し付けになりかねないと思います。より重要なのは自治体の職員に入ってもらうことです。

 都道府県や市町村の人たちに中央に来てもらって、彼らがリードする形で標準化できれば変わると思います。現場の使いやすさという視点が入らないのは「国が上で自治体が下だ」という意識が根底にあるからではないでしょうか。