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 世界トップレベルのインターネットインフラができたが、その利活用が進まなかった――。こうした反省を踏まえ、竹中平蔵東洋大学教授はデジタル庁の重要課題を2つ挙げる。デジタル社会の重要なインフラとしてのマイナンバー制度の整備と、誰もデジタル化に取り残させない「デジタルミニマム」への対応だ(2020年10月5日にインタビューを実施)。

(聞き手は長倉克枝=日経クロステック)

竹中平蔵東洋大学教授
竹中平蔵東洋大学教授
1951年生まれ。一橋大学卒業。日本開発銀行などを経て1996年慶応義塾大学教授。2001年経済財政政策担当相、2005年総務相などを歴任。2016年より慶応義塾大学名誉教授、現職。世界経済フォーラム(ダボス会議)理事。(写真:村田和聡)
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行政のデジタル化の課題をどう見ていますか。

 2000年に慶応義塾大学の村井純教授と一緒に、インターネットに関する国家戦略を当時の森喜朗首相に提言しました。そのときの目標は、日本のインターネットインフラを世界最高水準に高めるというものでした。

 結果的にインターネットインフラに関して、日本は世界のトップレベルになりました。問題は、その利活用がうまくいかなかったことです。それが今回の新型コロナウイルス感染症対策で、遠隔教育や遠隔診療が進まないなどとして顕在化しました。遠隔教育にしても遠隔診療にしても、インフラはあるのに規制が邪魔をして利活用が進んでいません。

 利活用が最も遅れているのが政府です。縦割りになっていて、各省庁でベンダーロックイン、つまり同じベンダーのシステムを使い続ける傾向があります。これは財政的にも非効率です。

マイナンバー制度はデジタル社会の最も重要なインフラ

デジタル庁には何を期待しますか。

 改革の象徴として、デジタル庁はまずは国民にとって分かりやすいところから変えていくといいと思います。1つ例を挙げると引っ越しですね。引っ越し時の転出届や転入届、住民票、運転免許証、銀行、水道などに関わる変更手続きを、1回届けると全部できるようにする。これは分かりやすくていいと思います。

 手続きが分かれているのは縦割りだからで、この縦割りの行政組織に横串を通すのが、実はデジタル化の本質です。デジタル化は単にデジタル機器を導入することではありません。横串を通すためにデジタル庁をつくるというのが、発想の原点なんですね。 

 

平井卓也デジタル改革相は「デジタル庁のトップに民間人を登用する」としています。

 

 これはぜひお願いしたいのですが、制度設計の段階から民間人を入れてほしいですね。政治家と役人が組織をつくって、そのうえで招くというのでは、民間人はきちんと仕事をできません。民間人を登用するなら、どういうデジタル庁をつくるかという、準備室での議論の段階からメンバーに入れるべきです。

新型コロナウイルス感染症対策では、雇用調整助成金等オンライン受付システムのトラブルや特別定額給付金の給付遅れなどの課題が指摘されました。

 各国が単なるデジタル化ではなくビッグデータ利活用を含む第4次産業革命を進めようという時期に、日本は2011年の東日本大震災に見舞われ、その対応で後れを取りました。日本の成長戦略に第4次産業革命が明示されたのは2016年です。画期的な技術進歩から日本は3~4年遅れたわけです。

 そこでマイナンバー制度ができましたが、「国が個人を管理する」といった言われ方をしました。そうではなくて、マイナンバー制度はデジタル社会における重要な個人認証制度で、最も重要なインフラです。

 例えばマイナンバーと個人の預金口座を結び付けていたら、特別定額給付金はもっと早期に支給できたでしょう。デジタル庁の重要な役割はまずマイナンバー制度をきちっと整備することだと思います。