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政府は新型コロナの難を乗り切る行政システムを2020年4月から相次ぎ立ち上げた。だが多くはトラブルに見舞われ、政府のIT活用の後ればかりが目立った。首相が行政DXに着手する今こそ、失敗に向き合い、原因を分析する必要がある。

 「デジタルを生かせなかった日本の課題は技術力ではなく、国の構造にある。行政をデジタル前提でつくり変える改革が必要だ」――。新型コロナウイルスの感染拡大が一旦弱まり緊急事態宣言が明けた2020年6月中旬。政府の新型コロナ対策におけるIT活用を担当した平将明内閣府副大臣(現衆院議員)は菅義偉官房長官(現首相)を訪ね、こう訴えた。

デジタル庁に向けた「デジタル改革関連法案準備室」の設立で職員に訓示する菅義偉首相(2020年9月30日)(写真提供:内閣府)
デジタル庁に向けた「デジタル改革関連法案準備室」の設立で職員に訓示する菅義偉首相(2020年9月30日)(写真提供:内閣府)
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 春先から続くデジタル活用の立ち遅れや混乱を総括し、平副大臣はデジタル政策を一手に担う新省庁の創設などを骨子とする改革の私案を伝えた。菅官房長官はこう応じた。「分かっている。もう分かっているから大丈夫だ」。

手作業より手間がかかる新システム

 菅官房長官は当時、新型コロナ対策のIT施策で思うような成果が出ず、デジタルを使いこなせない行政の実態を目の当たりにしていた。感染者の情報は紙やファクスの人海戦術に頼り、都道府県で数字の基準がそろわずリアルタイムで実態を把握できなかった。

 10万円の「特別定額給付金」では、これまで普及に注力してきたマイナンバーカードを使うオンライン申請で混乱が生じ、40以上の自治体がオンライン受付を途中で取りやめた。国と地方の情報連携の不十分さが露呈し、混乱を招いた格好だ。

 情報の活用能力が弱い行政の課題は、厚生労働省で新型コロナ対策の最前線に立った橋本岳副大臣(現衆院議員)も痛感していた。加藤勝信厚生労働相(現官房長官)と厚労省幹部を交えた対策会議において、幹部が情報確認や資料探しのために若手官僚を文字通り走らせる光景を何度も見た。そこには政策判断に必要な情報を1カ所に集約するITダッシュボードをつくるという発想はなかった。

 「新型コロナ対策に焦点を絞った、感染者情報を管理する新システムが必要だ」。こう考えた橋本副大臣は2020年3月末に省内で開発を指示。ただ厚労省にプロジェクトを任せられるほどの能力を持つIT人材は「片手で数えられるほどしかいなかった」。

 それでも新システム「HER-SYS」を1カ月強という短期間でつくり、2020年5月に稼働させた。だがIT人材の不足や拙速な判断に起因する不具合が続出。個人情報保護の機能が足りない点などを理由に、一部の自治体や保健所は導入にノーを突きつけた。

 対応が終わり全自治体に利用が広がったのは稼働後4カ月たった2020年9月だった。今も入力項目が多すぎるなど「紙とファクスの届け出よりも時間がかかる」との苦情が絶えない。