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 「東海道で一番目立つ家をつくってほしい」。建て主のこんな一言から、住宅の設計が始まった。何とも新鮮な体験だった。

 住み手は、米ニューヨーク暮らしが長かった画家の夫と妻。そしてこの住宅には、子ども1人と祖母の合計4人で暮らしている。

 3世代の4人が暮らす家の床面積は、87.23m2しかない。にもかかわらず、絵画を描き飾るアトリエ・ギャラリーの面積が、全体の約3分の1を占めている。建て主の一風変わったアイデンティティーがうかがえる。

 設計の初期段階から決めていたのは、東海道(現・国道1号)に対して「引き」をつくることだった。それは現代画家として生きる建て主と、東海道五十三次を紡いだ江戸時代の浮世絵師、歌川広重の存在を重ね合わせたとき、東海道に対してある種の敬意を払う意味を込めた。

 目立つ家を望む一方で、「圧迫感を与えない」「明るく保つ」ことを命題とした。敷地が広いわけではないので、余剰空間をつくっても駐車場にしか使われないことは容易に想像できた。そこで建築形態で「引きをつくることができないか」という考えに帰着した。

 そうして生まれた建築が、屋根のような壁、あるいは壁のような屋根を持つ、強いフォルムのセットバック住宅だった。見通しが良い東海道では、道路に対して後退したたたずまいが、広重へのオマージュを表している。同時に、建て主の希望だった最大限の自己主張でもある。建て主の思いは実現できた。

 完全幾何学の形に建物をトルソー(胴体部分の彫刻)のようにかき取った部分の玄関は、建て主のギャラリーを町に開くことに一役買っている。建築名である「8.5ハウス」は、ギャラリーの名称として地元の神奈川県二宮町で認知され始めている。

 近隣の神奈川県大磯町や小田原市に比べると、二宮町はあまり特徴がない。そこでこの町を「8.5エリア」と位置づけた。地元自治体と共に、イベントや町おこしが予定されている。

 8.5という数字は、東海道五十三次の宿場順に由来する。二宮町は、8番目の大磯と9番目の小田原の間にある。現代に生きる画家の建て主によって、中間の「8.5番目」を二宮町で紡いでもらおうという思いを込めている。

巨大な三角形に見える住宅。玄関周りはガラス張りで、中のアトリエ・ギャラリーが外から見える(写真:高栄 智史)
巨大な三角形に見える住宅。玄関周りはガラス張りで、中のアトリエ・ギャラリーが外から見える(写真:高栄 智史)
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壁のような大屋根が架かる(写真:高栄 智史)
壁のような大屋根が架かる(写真:高栄 智史)
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