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 自動車開発で、ハードウエアとソフトウエアの「分業」が始まった。主戦場は自動運転ソフトだ。自動車メーカーが過去に培ってきたハード開発の経験は、全く通用しなくなる。一方でソフトやセンサー、認識技術に強い企業には新規参入の好機。どこまで自ら開発し、どこを他社に委ねるのか。新興勢を巻き込み、「分業」と「統合」の激しい駆け引きが始まった。先頭を走る米Google(グーグル)系企業を追いかけるイスラエルMobileye(モービルアイ)やソニーは、積極的に分業して開発を加速する。

 トヨタ自動車が2022年度にかけて、ソフトとハードの開発体制を分離する新しい組織に再編する方針であることが日経クロステックの調べで分かった。進化の遅い車体や電子制御ユニット(ECU)といったハードの開発にしばられず、ソフトを頻繁に更新できる体制に移行する。業界トップ級のトヨタがソフト重視にかじを切ることは、自動車開発のあり方が今後がらりと変わることを示唆する。

 ソフトとハードの分業は、今後の技術開発の主戦場である自動運転に欠かせない。ソフトの性能が競争力の根幹である上に、その規模は巨大だ。ソフトがハードの脇役となる開発体制では、到底対応できない。深層学習などの新技術を中心に、アルゴリズムの進化も激しい。車両開発のように5年単位で新しくするのでは、競争力を維持できない。

 一方で、ソフトの規模があまりにも大きく、全て手掛けるのは難しいのが実情だ。どこまで自ら手掛け、どこを他社と分業するのか。その巧拙が、新しい分業時代の勝敗を左右する(図1)。

図1 自動運転の主役はソフトだけか
図1 自動運転の主役はソフトだけか
自動運転ソフトの開発に新興企業を含めて多く参入する。その規模は大きく、1社で全て開発するのは難しい。どこまで手掛けて、どこを分業するのか、その巧拙が重要になる。写真は、自動運転ソフト開発で先頭を走るWaymoの車両。
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 「ソフトありきで、ハードの構成を考えたい」(ソニー執行役員AIロボティクスビジネスグループの川西泉氏)――。

 ソフト主導の自動車開発の到来は、多くの企業に新規参入の好機を生み出す。20年1月、ソニーは電気自動車(EV)の試作車を発表した(図2)。一定の条件下で無人で走れる、レベル4を目指した自動運転ソフトの開発に挑む。車載イメージセンサーに強いソニーだが、車両開発については門外漢だ。それでもソフトが主役に立つ自動運転開発においては、エレクトロニクス機器の開発で培ったソフトの技術力を生かして存在感を発揮できると見込んだ。

図2 ソニーがレベル4の自動運転ソフトの開発を目指す
図2 ソニーがレベル4の自動運転ソフトの開発を目指す
EVの試作車を発表した。(出所:ソニー)
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 ソニーが目指すのは、Googleから16年に独立した米Waymo(ウェイモ)だろう。ハードに強い既存の自動車メーカーや大手部品メーカーを押しのけて、ソフト主導のWaymoがレベル4の自動運転開発で世界の先頭を走る。

 20年10月、米国アリゾナ州で実施している自動運転車による配車サービスを特定ユーザーから一般層に拡大した。同年5月までに30億ドル(約3200億円)の資金調達を終えている。世界に先駆けた本格的な量産は目前だ。

 Waymoの台頭は、自動運転時代になると自動車の付加価値の大半が、ソフトに移ることを象徴する。トヨタにとってはハード開発の長い経験と蓄積が通用しなくなる危機であり、新参者のソニーにとってはソフトの強みを生かせる好機と映るわけだ。