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 ソフトウエアの役割が高まることで、相対的に付加価値が下がる車体(ハードウエア)の開発――。これまで考えられなかった巨大な単位の「分業」が活発になっている。電気自動車(EV)のプラットフォームを他社に委ねる異例の事態が相次ぐ。自動車メーカーの独壇場だったプラットフォーム開発に、部品メーカーなどが挑み始めた。

 「EV開発の投資を減らし、開発サイクルを短くする」――。

 「iPhone」の製造受託で有名な台湾の鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)が2020年10月16日、EVのプラットフォームを開発したと発表した(図1)。今後、他社に供給していく。同プラットフォームを採用した最初のEVを、22年までに投入する計画だ。鴻海董事長の劉揚偉氏は同社のプラットフォームを搭載したEVの販売で、27年には世界シェアの10%を獲得するとぶち上げる。

図1 鴻海がいよいよ自動車産業に本格参入
図1 鴻海がいよいよ自動車産業に本格参入
自動車開発の参入障壁を大きく下げる。(出所:鴻海精密工業)
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 鴻海が開発したEVプラットフォーム「MIH Open Platform」の特徴は、多くの企業に利用してもらえるように、企業ごとに変更できる範囲をかなり広くしたことだ()。

表 鴻海が開発するEVプラットフォームの概要
表 鴻海が開発するEVプラットフォームの概要
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 パワートレーンやステアリング、ブレーキなど「走る・止まる・曲がる」の基本機能を全て備えた上で、車両サイズや種類を幅広く用意した。B~Eセグメントに対応し、ホイールベースの可変幅は2750~3100mmとかなり大きい。ハッチバック、セダン、多目的スポーツ車(SUV)、多目的車(MPV)などほとんどの種類に対応できるという。

 鴻海の参入は、自動車開発の既存の秩序を大きく揺るがすインパクトがある。車体プラットフォームの設計と製造はこれまで自動車メーカーの“特権”であり、新規参入企業にとって大きな障壁となっていた。それが崩れることを意味するからだ。

 「自動車開発・製造への参入には、試作に数億円、量産車設計に100億円、量産に1000億円の投資がかかる。初期投資後に必要な運転資金も莫大で、少なくとも数千億円の資金が必要になる。資金調達のハードルは極めて高い」――。

 09年にEVメーカーのSIM-Drive(シムドライブ)を創業した清水浩氏(現e-Gle社長)は、自動車産業に新しく参入するハードルの高さをこう嘆く。SIM-Driveはインホイールモーターを駆使した斬新なEVを試作したものの、量産にこぎつけるまでの資金を調達できず、17年に会社を清算した。

 近年、自動車産業への参入に成功したのは、資金調達で“マジック”を連発するカリスマ、Elon Musk(イーロン・マスク)氏の米Tesla(テスラ)くらいだ。鴻海によるEVプラットフォームの開発と製造は、自動車産業に新しく参入したい企業にとって、そのハードルを大きく下げる福音となる。SIM-Driveの設立時に鴻海がEVプラットフォームを開発していれば、結果は違ったかもしれない。

 「EVのAndroidを目指す」――。

 鴻海は、車体側のプラットフォームにとどまらず、ソフトウエアのプラットフォームまで提供することも発表した。リアルタイムOSやSDK(ソフトウエア開発キット)などから構成し、レベル2~4の自動運転への対応を想定しているという。鴻海のソフトプラットフォームを利用すれば、新規参入を狙うソフト企業は得意とする「アルゴリズムの開発に集中できる」(鴻海でソフトプラットフォーム開発を担当する魏国章氏)と利点を強調する。鴻海のSDKを利用してアルゴリズムを短期間に開発すれば、後は鴻海が車両に仕立てて量産してくれるわけだ。