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 レベル4の自動運転。その中核となるセンサーとソフトで、自動車メーカーとのあつれきを恐れず、異例の分業をもくろむのがイスラエルMobileye(モービルアイ)だ。一方、イメージセンサー単体の汎用品化に備えて、ソニーや米ON Semiconductor(オン・セミコンダクター)は“隣地”の技術を統合する戦線拡大に挑む。センサーとソフトの分業と統合の線引きを巡り、各社の駆け引きが激しくなってきた。

 Mobileyeが、自動運転における安全基準の標準化に着手した。表向きの狙いは、自動運転ソフトの安全性を対外的に説明しやすくすること。裏には同ソフトの開発で異例の「分業」を実現し、自らの強みをさらに強くするしたたかな思惑がある。「安全」という自動車メーカーの存在意義に関わる領域に果敢に攻め込み、自動運転ソフトで先行する米Google(グーグル)から独立したWaymo(ウェイモ)を追いかける。

 Mobileyeは、「RSS(Responsibility-Sensitive Safety)」と呼ぶ数式で記した自動運転の安全基準について、2020年から「IEEE(米国電気電子技術者協会)P2846」で標準化作業を始めた(図1)。同年内に草案を発行する計画である。

図1 安全のアルゴリズムを標準化
図1 安全のアルゴリズムを標準化
Mobileyeは、安全な自動運転ソフトにするための考え方を提案する。前後方向の距離や交差点における動作など多くの場面の制御方法を定式化し、標準化することを目指す。(出所:Mobileye)
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 RSSは、例えば前後方向の車間距離や、割り込みを防ぐ横方向の距離などを定式化したもの。RSSに基づく自動運転ソフトであれば、基本的な安全は担保されるとうたう。「決して事故を起こさない自動運転ソフトであることを証明するもの」(Mobileye)を目指す。

 自動運転ソフトの開発企業にとって大きいのは、仮に“もらい事故”が起きたとき、標準化手続きを経たRSSに基づくソフトであれば、事故の責任がないことを対外的に説明しやすくなることだ。

 さらに自動運転ソフトの検証にかかる工数を抑えやすくなる利点もある。RSSの数式通りに車両が動けば、それで検証が終わりと言えるからだ。もしRSSがなければ、多くの交通環境を想定した膨大な検証作業が要るかもしれない。どこまでやれば安全と言えるのか答えがないし、複雑で対外的にも説明しにくい。

 全ての企業に利点があると思えるRSSの標準化。Mobileyeと競合する自動運転ソフト企業が多く参加する()。例えば米新興企業のAurora(オーロラ)や中国IT大手のBaidu(百度)、米NVIDIA(エヌビディア)、Waymoなどだ。

表 自動運転ソフトの安全基準を標準化
表 自動運転ソフトの安全基準を標準化
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 一方で、自動車メーカーの大半は様子見である。Mobileyeと協業する独Volkswagen(フォルクスワーゲン)と、Waymoと組む欧米Fiat Chrysler Automobiles(フィアット・クライスラー・オートモービルズ、FCA)くらい。Mobileyeの盟友と呼べる独BMWですら入っていない。

 自動運転ソフトを自ら開発する自動車メーカーにとって、「安全」というこれまでの強みを発揮できる領域を標準化されると、優位性を崩されると警戒するのだろう。安全に責任を負うことは自動車メーカーの存在意義と言えるし、競争領域の1つと考えるのが普通である。