岡山県倉敷市の美観地区に立つ「倉敷アイビースクエア」は、1974年に開業した複合文化施設だ。1889年の創建時には工場だった産業遺構を、所有者である倉敷紡績(クラボウ)が保存・再生した、コンバージョン(用途転用)建築の先駆けとして知られる。2017年に着工した大規模リニューアル工事が20年秋に一段落つく。
設計者の浦辺鎮太郎は1950年代から倉敷のまちづくりに関わり、公共、民間の様々な施設を市内に残している。現・浦辺設計(大阪市)も市民会館や大原美術館分館、倉敷国際ホテルの改修などを手掛け、その歩みを継承してきた。
敷地には、宴会機能を持つホテルと、2017年まで美術館として使用した旧児島虎次郎記念館の2棟のレンガ造の建物が立つ。耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する法律)に基づく特定建築物に該当しないため、法的に早急な改修が求められるものではないが、歩行者などの安全確保のため、四周を囲むレンガ壁の補強はいずれ必要になると認識されていた。
宴会場新設とレンガ壁補強を一体で
2010年代に入り、クラボウと施設運営者の倉敷アイビースクエアは大宴会場の新設を主目的とする大規模リニューアルの検討を開始した。市内に欠けている収容人数1000人規模の宴会場を建設するというものだ。
「エクスカーション(遊覧旅行)の面では秀でているのに、肝心のコンベンション誘致の核がなかった。また、インバウンド対応のため、施設コンセプトは保持しつつ設備面で快適なホテルに更新したいと考えた」と倉敷アイビースクエア宿泊部部長の深井憲氏は語る。
自治体からはレンガ壁の続く景観の保全を期待される中、民間事業として成立するコストで耐震性能を向上させるのは難題だった。建設会社に相談を持ちかけても課題の解決に至らず、いくらか足踏みした時期がある。最終的に原設計者である浦辺設計に提案を求め、後に策定するマスタープランに基づいた段階的な工事に至った。
計画が前進したポイントは、倉庫などのあった南西角部に約2500m2の大宴会場を配置し、リニューアル工事費の枠内で、高さ8mの南側レンガ壁および西側レンガ壁の補強を一体で進める案を導き出したからだ。
「従来計画から導かれる工事費の坪単価と同水準で可能となる案を示し、承認を得た。設備を合わせても、通常の学校体育館程度の工事費で収まっている」と浦辺設計の西村清是代表は語る。
