香川県庁舎東館は、丹下健三(東京大学丹下健三計画研究室)が設計を手掛けた、モダニズム建築を象徴する存在として知られる。建設当時の金子正則・香川県知事の願いを受け、民主主義を体現し、行政の近代化を進めるための建物として1958年に竣工した。その価値を保全する免震レトロフィット工事が19年12月に完了した。
東側の前面道路に沿い、長方形平面で地上3階建ての低層棟が陣取る。西側に、正方形平面で地上9階建ての高層棟が立つ。長手方向で約100mに及ぶ低層棟の1階部分は、ほぼ全体がピロティとして街に開かれている。高層棟のガラス張りのロビー、その前面の南庭までオープンスペースが連続する。
免震化のメリット周知を図る
県は東館を、重要度の高い防災拠点施設と位置づけている。1997年には、最初の耐震診断を実施。「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」改定後、2012年に再び診断と躯体調査を実施した。後者は、原施工者の大林組が担当している。
診断の結果、構造耐震指標のIs値(最小値)は高層棟で0.18、低層棟で0.27と安全値の0.6を下回った。「地震の震動および衝撃に対して倒壊、または崩壊する危険とされる範囲」であるため、耐震化が喫緊の課題となった。
コンクリート(躯体)自体は、設計基準強度の180kgf/cm2以上を保ち、中性化は余り進んでいなかった。ひび割れも多くない。適切な維持管理を継続すれば、50年以上は利用可能という判定だった。
耐震診断時から関わり始めた大林組設計本部構造設計部の岸浩行氏はこう語る。「梁の鉄筋のかぶり厚も十分に取られていた。躯体性能が悪ければ、以後の保存の議論につながらなかった。建設当時から長寿命の建築にしようとする意識があったのだと思う」
県の営繕課は、建物に愛着と誇りを持ってきた。しかし、県民はじめ広く保存のコンセンサスを得るには、コストなどの比較検討を明瞭に示す必要があると認識していた。
13年には、東京大学名誉教授の岡田恒男氏を会長とする「香川県庁舎東館保存・耐震化検討会議」を設置。各分野の有識者が審議し、「高い文化的な価値を持つ建物であり、将来に向けて保存すべきである」とする報告書をまとめた。この時点で、基礎免震工法を軸とする比較検討を示唆している。
14年には、引き続き岡田氏をチーフとし、5人の香川県庁舎東館耐震工法等検討アドバイザーを任命。助言を受けつつ、免震改修案の他、耐震補強案、改築案のそれぞれにバリエーションを設定し、比較検討表を作成。耐震性や執務環境の機能性、工事費・維持管理費を含むライフサイクルコスト、工事中の利用制限、文化的な価値に対する影響などの比較結果を公表した。
上部構造に揺れが直接伝わらない基礎免震を採用すれば、「開かれた庁舎」の由縁であるピロティなどの価値を維持できる。また、高層棟フロアなどを耐震要素で分断せずに保全できる。仮庁舎を用いない、利用しながらの工事はコスト面のメリットも発揮する。
それら見解を基に、県は14年11月、東館の保存を前提とする免震改修案の選択を県議会で表明した。工期は約2年、工事費などは約42億円、ライフサイクルコストは約186億円と算出した。
耐震改修の基本設計には簡易公募型プロポーザル方式を取り、松田平田設計と約4460万円で契約。15年6月~16年2月に実施した。実施設計と施工には一般競争入札・施工体制確認型総合評価方式を採り、大林組・菅組JVと約42億2425万円で契約。16年12月~19年12月に実施した。