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 三菱地所は2020年1月、東京駅周辺の「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)」地区における今後10年の開発方針を発表した。前後して同社が着手し、「有楽町の再構築」に向けた先導プロジェクトと位置づけるのが「Micro STARs Dev.(マイクロスターズディベロップメント)」だ。

 02年開業の丸の内ビルディング以降、同社は丸の内エリアを中心に積極的に建て替え事業を進めてきた。「丸の内 NEXT ステージ」と称する10年間で目玉となるのは、東京駅北側で工事が進む「東京駅前常盤橋プロジェクト」だ。総延べ面積約74万m2に及ぶ国内屈指の大規模再開発で、27年度に完了する。

 地区内のうち有楽町エリアには、07年開業の「ザ・ペニンシュラ東京」以外に目立った動きが少なかった。今回のNEXTステージの中で同社は改めて、文化・芸術・MICEを核とする、より多くの人に開かれた有楽町のイメージを描き出している。日比谷や銀座に近く、東京国際フォーラムや帝国劇場を有するという特性を考慮したものだ。

 その中で順次開業に至った「Micro STARs Dev.」2案件に関し、三菱地所プロジェクト開発部有楽町街づくり推進室副室長の有光頼幸氏はこう語る。「“有楽町育ち”と言われるような新しいスター的な個人が生まれる環境づくりを目指す。ハードよりもソフトに寄ったものだ」

「SAAI」フリースペース。イベント対応可能な160m<sup>2</sup>のスペース。家具は大半が可動式。一部残る天井とペリメーター部分の造作は既存のもの(写真:山本育憲)
「SAAI」フリースペース。イベント対応可能な160m2のスペース。家具は大半が可動式。一部残る天井とペリメーター部分の造作は既存のもの(写真:山本育憲)
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「SAAI」フリースペース。左手がエントランス。折り上げ天井とシャンデリア照明は改修前にあった既存のものを生かした。学校用のイスや机、太陽光パネルなど廃棄物を再利用する「アップサイクル家具」を各所に配している(写真:山本育憲)
「SAAI」フリースペース。左手がエントランス。折り上げ天井とシャンデリア照明は改修前にあった既存のものを生かした。学校用のイスや机、太陽光パネルなど廃棄物を再利用する「アップサイクル家具」を各所に配している(写真:山本育憲)
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 同推進室は、オフィスや商業施設の開発、街のブランディングなどの部門の垣根を取り払い、スピード感を持って有楽町再構築の取り組みを進めるための新組織だ。19年に街づくり準備室として発足し、後に改称した。

 その活動の始めの一手として、保有ビルの一角をリノベーションし、実験店舗「micro FOOD & IDEA MARKET(マイクロフード アンド アイデアマーケット)」を19年12月に、ワーキングコミュニティー「SAAI(サイ)」を20年2月に開業した。

「SAAI」平面図
「SAAI」平面図
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個人の起業マインドを支援する場に

 SAAIは、企業内ベンチャーや社内起業家をメインのターゲットに据えた会員制スペースだ。一般的なワークスペースなどとの大きな違いは、アイデア探しや人の交流を促し、事業化に向かわせるための支援体制にある。「いきなりビジネスを立ち上げるという目的ではなく、新しい一歩をまず踏み出してもらうための場所づくりがコンセプト」と有光氏は説明する。

 企業の新規事業立ち上げ支援などを手掛けるゼロワンブースター(東京・千代田)が運営を担い、同社の社員が常駐して会員からの相談に乗る他、施設内でのイベントなども企画する。また、地域プロデュースなどを手掛けるumari(ウマリ、東京・港)代表の古田秘馬氏を中心に、「Micro STARs Dev.プロデューサー」と銘打ち、起業、メディア、建築などの多様なジャンルから高い実績を持つ16人が協力。先導者あるいはファシリテーター的な位置づけでサポートに加わる。

「SAAI」内、バーカウンターと既存のしつらえを生かした和室を見る。メタモルフォーゼと、とがった人材のダブルミーニングとして「bar 変態」と名付けた(写真:山本育憲)
「SAAI」内、バーカウンターと既存のしつらえを生かした和室を見る。メタモルフォーゼと、とがった人材のダブルミーニングとして「bar 変態」と名付けた(写真:山本育憲)
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「SAAI」エントランス側から、フロア奥のフリースペース方向を見る。右手前のエリアに施設を運営するゼロワンブースターのスタッフが常駐。左手はロッカーで、その奥の部屋内にゼロワンブースターのオフィスがある(写真:山本育憲)
「SAAI」エントランス側から、フロア奥のフリースペース方向を見る。右手前のエリアに施設を運営するゼロワンブースターのスタッフが常駐。左手はロッカーで、その奥の部屋内にゼロワンブースターのオフィスがある(写真:山本育憲)
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 新有楽町ビルの10階、企業のOB向け会員施設だった約300坪の区画を改修して使っている。改修設計はOpenA(オープン・エー、東京・中央)が担当。受付カウンターや書棚、あるいはシャンデリア照明など元の造作や備品を生かし、リノベーションの妙を感じさせる空間としている。

 イベントにも利用できるフリーゾーンの他、契約制の固定デスク、プレゼンステージ、キッチン&ダイニングなど多彩な場を用意した。ユニークなのは「Bar 変態」の看板を掲げるバーカウンターで、酒のボトルも並ぶ。「会員有志が中に立ち、フランクかつアナログなコミュニケーションの場として活用されている」(有光氏)

 三菱地所は、丸の内の「EGG JAPAN(エッグ ジャパン)」(07年開業)や大手町の「FINOLAB(フィノラボ)」(16年)、「Inspired.Lab(インスパイアードラボ)」(19年)などスタートアップ向けの新しいオフィスサービスを展開してきた。また、WeWork(ウィーワーク)が丸の内に1400席のコワーキングスペースを開設した際は、同社に協力している。

「丸の内型」のイノベーションを起こすための4つの取り組み。大丸有地区には約4300の事業所、約28万人の就業者が存在する。街全体を実証実験の舞台として扱い、イノベーションのサイクルが回り続けるエコシステム構築を目指す(資料:三菱地所)
「丸の内型」のイノベーションを起こすための4つの取り組み。大丸有地区には約4300の事業所、約28万人の就業者が存在する。街全体を実証実験の舞台として扱い、イノベーションのサイクルが回り続けるエコシステム構築を目指す(資料:三菱地所)
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 SAAIは、それらとは一線を画す試みとなる。近年、個人のクリエーティビティーを重んじるマイクロサイズの企画開発を、企業が新規事業の取り組みとして導入する動きがある。「大丸有エリアの企業や就業者にも、強いニーズがあると実感している。オフィスビル内の商業施設と同様に、エリアの付加価値として支援サービスを提供する意義がある」(有光氏)

SAAI Wonder Working Community(サイ ワンダー ワーキング コミュニティ)
  • 所在地 東京都千代田区有楽町1-12-1 新有楽町ビル 10階
  • 地域・地区 商業地域、防火地域
  • 許容建蔽率 80%
  • 許容容積率 1300%

[既存建物]

  • 竣工年 1969年
  • 用途 事務所
  • 敷地面積 7233.26m2
  • 建築面積 7264.92m2
  • 延べ面積 8万3023.27m2
  • 構造・階数 鉄骨鉄筋コンクリート、地下4階・地上14階・塔屋1階
  • 耐火性能 耐火建築物
  • 高さ 最高高さ49.5m、軒高38.2m
  • 主なスパン 6.82m×6.70m
  • 駐車台数 235台
  • 原設計者 三菱地所
  • 原施工者 非公表
  • 現所有者 三菱地所

[今回工事:リニューアル(地上10階専用部の一部)]

  • 建築確認の有無 無
  • 用途 同上
  • 改修面積 1000.10m2(基準階面積4760m2
  • 高さ 天井高2.30m~3.30m
  • 発注者 三菱地所
  • 企画・プロデュース 三菱地所
  • 設計・監理者 Open A
  • 設計協力者 YND ARCHITECTS
  • 施工者 船場
  • 運営者 ゼロワンブースター
  • 設計期間 2019年5月~10月
  • 施工期間 19年11月~20年2月
  • 開業 20年2月14日