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 リアルな“現在の空間”を保存・再現するデジタル技術「フォトグラメトリ」の対象が、土木から建築分野に広がってきた。多様な実践を展開する藤原龍氏に、同技術の現在を解説してもらった。

Q. フォトグラメトリとは、どんな技術ですか?

 ある対象物を複数アングルから撮影した写真を基に、3D(3次元)モデルを生成する技術です。それぞれの写真の特徴点を照らし合わせ、撮影位置・角度の差異から空間座標を計算して3Dモデルを構築します。日本語では「写真測量」と呼び、古くから存在するものです。

主な要素技術

Structure from Motion(SfM)
複数アングルの画像から対象物の3D形状とカメラの相対位置・角度を推定し、3Dの点群データ(疎な点群)として生成

Multi-View Stereo(MVS)
SfMによって構造化された点群データを基に、より高密度な3Dの点群データを生成

Surface Reconstruction
3Dの点群データを基に、ポリゴンを張った(CAD/CG用の)3Dモデルを生成

 デジタル技術としては主に「Structure from Motion」「Multi-View Stereo」「Surface Reconstruction」といった要素の組み合わせで実現しています(上の囲みを参照)。

 既に普及しているレーザースキャン(測量)との違いとして、構築した3Dモデルに対し、元の写真を使ってテクスチャーを生成するのが特徴です。まさにフォトリアルなモデルになるわけですが、デジタルカメラやコンピューターの進歩によって精度や解像度、いわば「再現度」を高めやすくなり、実用的になってきました。

Q. どんな目的で用いられているのですか?

 例えば、デジタルアーカイブの手段として認められています。建築物を含む様々な文化財が対象になり得ます。手で触れにくいものでもフォトグラメトリであれば汚れや破損を気にせずに3Dモデル化し、閲覧や研究用に展開できるわけです。水中考古学の分野でも注目されています。レーザースキャンの難しい水中遺跡などを正確に3Dモデル化し、現地で何度も潜らずともディテールに及ぶ調査・研究が可能となるようにしているのです。

「旧都城市民会館」3次元デジタルアーカイブプロジェクト(4ページ目参照)のデータを利用したフォトグラメトリ作例(資料:藤原龍)
「旧都城市民会館」3次元デジタルアーカイブプロジェクト(4ページ目参照)のデータを利用したフォトグラメトリ作例(資料:藤原龍)
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 映画産業やゲーム産業などでは、3Dアセットの作成に用いられています。よく知られているものでは、バーチャルな地球儀であるGoogle Earthがフォトグラメトリによるものです。

Q. 土木・建築分野では、実用的なものとなっているのですか?

 土木分野では、広域の地形を3Dで把握するために活用されています。例えば、切り土・盛り土による土量の変化や、土砂災害による流出土砂量を把握したい場合に、前後の航空写真があれば3Dモデル化して体積を比較できます。

 土木分野では許容される精度であっても、建築分野で使おうとすると計測で生じる誤差や、生成される3Dモデルの破綻は、これまでは許容できるものではありませんでした。その限界が突破されつつあるのが現在だと感じています。

 これまで図面の残っていない既存空間の改修工事のためにデータを起こしたい場合、実測かレーザースキャンに頼っていたはずです。今後、フォトグラメトリも選択肢に入るとみています。

Q. フォトグラメトリによって建物を3Dモデル化する際の手順を教えてください。

 スマートフォンの写真からでも生成できるのですが、ノイズが少ないほど計測の誤差を減らせるので、私はフルサイズ(撮像素子・縦24mm×横36mm)のデジタル一眼カメラを使用しています。レンズも、ゆがみの出ないものを選んでいます。

 建物の場合、カニ歩きして端から順に連続した写真を撮ります。画角に収まらなければ上下にもカメラを振って撮り、横に移動したら、前の写真と3分の2ぐらいが重なるようにして満遍なく撮っていきます。屋内であれば、ぐるっと巡ってくる。後から視差を利用して解析するわけですが、どのような撮影の仕方が理想的かは経験でつかんできました。

一眼カメラによるフォトグラメトリのための撮影時の足運びを可視化した図。広域の場合は、一筆書き状の移動を意識しつつ、ブロックごとに閉じた円をつくりながら回るなど、位置推定のずれが出にくいように工夫する必要がある(資料:藤原龍)
一眼カメラによるフォトグラメトリのための撮影時の足運びを可視化した図。広域の場合は、一筆書き状の移動を意識しつつ、ブロックごとに閉じた円をつくりながら回るなど、位置推定のずれが出にくいように工夫する必要がある(資料:藤原龍)
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 最初に趣味で製作したのが、洞窟を含む鎌倉(神奈川県)の銭洗弁天(銭洗弁財天宇賀福神社)です。これは約3600枚の写真で構成しています。オフィスのワンフロアの再現に、やはり2000~3000枚は必要になるというのが経験則で分かっています。建物であれば、2倍から3倍以上になります。

フォトグラメトリを活用した「銭洗弁天VR」(作成過程)。遠隔地からの仮想的な訪問体験の他、「夜間の境内散策」のような“再体験ルート”などの提供も可能になる(資料:藤原龍)
フォトグラメトリを活用した「銭洗弁天VR」(作成過程)。遠隔地からの仮想的な訪問体験の他、「夜間の境内散策」のような“再体験ルート”などの提供も可能になる(資料:藤原龍)
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 3Dモデルの生成には、フォトグラメトリソフトの「Reality Capture」(Capturing Reality社)あるいは「3DF Zephyr」(3Dflow社)を用いています。自動処理するといってもモデルには破綻が生じるので、3DCGソフトを使って手作業で直していかなければなりません。手作業の部分の方がずっと手間がかかるというのが現状ですね。