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 米Sony Interactive Entertainment(SIE、ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が2020年11月12日に発売する据え置き型ゲーム機「PlayStation 5(PS5)」ではゲームに対する「没入感」を従来機「PlayStation 4(PS4)」以上に高めることを目標に掲げた。この実現のために、ユーザーインターフェース(UI)といったソフトウエアとハードウエアの両面で作り込んだ。本連載ではこれまで、UIを中心に取り上げた。今回から2回にわたり、ハードウエア開発の責任者である伊藤雅康氏(SIE ハードウェアエンジニアリング&オペレーション担当EVP)や機構設計・熱設計の責任者である鳳(おおとり) 康宏氏(ハードウェア設計部門 メカ設計部 部長)への取材を基に、PS5のハードウエア開発の舞台裏を紹介する。

伊藤 雅康(いとう・まさやす)氏
伊藤 雅康(いとう・まさやす)氏
ハードウェアエンジニアリング&オペレーション担当EVP。1986年にソニー入社。2000年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現SIE)へ。ハードウエア設計を担当し、2005年に設計生産本部 副本部長、2007年にSVP(設計担当)に就任。その後も重要な役職を歴任し、2016年から現職。ソニーの執行役員も兼任している。(出所:SIE)
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 没入感を高めた上で、「プレイステーションである以上、ユーザーが手に取りやすい価格にする」(伊藤氏)――。これがPS5のハードウエア開発における最重要課題だった。そこで、「これまでのプレイステーションシリーズ同様に、あらゆる部品・技術でコストを意識して採用していった」(同氏)という。

 その結果、PS5で499米ドル、光ディスクドライブを省いた「PS5デジタル・エディション」で399米ドルと、アナリストなどゲーム業界の予想を下回る販売価格を実現した。これは、コストが上回る「逆ザヤ」となる価格だが、「目標となるコストを達成した」(伊藤氏)という。すなわち、PS5はゲームソフトやサービスの販売を含めて利益が出る構造だとみられる。こうしたビジネス形態は、ゲーム業界では一般的だ。

 PS5では既存技術を応用しつつ、コストをなるべく抑えながら、ゲームへの没入感を高める独自機能を搭載していった。没入感を高めるために導入したハードウエア技術をまとめると、大きく3つある。高速化と静音化、そして臨場感を高めるための技術だ。UIやゲームがサクサクと動かないと、途端にゲームに対する没入感が低下する。冷却ファンの音が大きいと、気になってゲームに集中できない。臨場感を高められれば、没入感が高まる。

PS5。左がデジタル・エディションで、右が標準版
PS5。左がデジタル・エディションで、右が標準版
(出所:SIE)
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 高速化に向けて、例えば、高性能なGPUを内蔵するメインプロセッサー(SoC)を採用した。これにより、4K、120フレーム/秒と多画素・高フレーム速度の描画を可能にした。

 ストレージにはHDDよりも高速なSSDを導入して、ゲームデータを読み込む(ロードする)時間を短縮。ゲームを始めるまでの待ち時間を大幅に短くした。

 ただし、パソコン向けSSD製品を流用するのではなく、カスタムのコントローラーICでSSDを高速化した。実際、データ読み込み速度は5.5Gビット/秒と、競合である米Microsoft(マイクロソフト)社の次世代機「Xbox Series X」に比べて高い。一般的なストレージ製品の場合、データ転送にオーバーヘッドが生じるために、速度のカタログスペック(理論値)と、実際の速度(実効値)に乖離(かいり)がある。だが、PS5では、5.5Gビット/秒はカタログスペックであるものの、実効値と「ほぼ同じ」(伊藤氏)だ。カスタムのコントローラーICを利用できた一因は、同ICの接続先がPS5のSoCに固定されているためである。

カスタムのSSDコントローラーICの位置を指さす鳳氏。同ICの周囲にSSDチップがある
カスタムのSSDコントローラーICの位置を指さす鳳氏。同ICの周囲にSSDチップがある
(出所:SIE公式の分解動画)
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 SSDの容量は825Gバイト。この容量は、500Gバイトや1Tバイトが一般的なパソコン向けSSDでは見かけない。だが、PS4ユーザーのストレージ利用状況を考慮した結果、「十分な容量だと判断し、決めた妥当な値」(伊藤氏)である。パソコン向けSSDのようにNANDフラッシュメモリーとコントローラーICを搭載したモジュール品を利用するのではなく、それぞれをディスクリート(個別)部品としてメイン基板に搭載し、SSDを構成した。複数個のNANDフラッシュメモリーの半導体チップと、コントローラーICをそれぞれ別々に実装している。

 高速化により、熱設計がハードウエア開発で大きなハードルになった。特にSoCは動作周波数が高い上、ダイが小さく、熱密度が「非常に高い」(鳳氏)。特にゲーム時のSoCの熱密度はPS4に比べて、「はるかに高い」(同氏)という。それは、PS5のSoCは、「ゲーム時は基本的にほぼフルパワーで動作する」(同氏)からである。そのため、TDP(Thermal Design Power、熱設計電力)の値とゲーム時の発熱量はほぼ同じだという。

 SoCのダイが小さいのは、ダイサイズがコストや歩留まりに直結するからである。すなわち、小さいほどコストを安く、かつダイの中に欠陥が入りにくくなって、歩留まり向上につながる。