欧米企業の受託業務で成長してきたインドのIT業界。米シリコンバレー企業とてインドのエンジニアや企業なしでは成長がおぼつかない。そして今やスタートアップが次々と生まれ、ユニコーンになる力を付けている。世界におけるインドITの役割は大きくなる一方だ。インドのテクノロジーエコシステムを活用するためにアジアと日本のテック大手4社がどう現地のグローバルセンターを成長させているのか、インドのR&D系コンサルティング会社に所属する筆者が解説する。
グローバル化は今日、選択するものではなく現実となっている。ここ10年ほどで、インドは多国籍企業がER&D(エンジニアリングR&D)、IT、BPM(ビジネスプロセス管理)の仕事をグローバル化しようとする際に最適なトップ拠点として浮上してきた。
インドはテクノロジーや製品関連に革新をもたらす主導的な地位を確立している。成功例をいくつか挙げよう。衛星やセンサーを使い農地の状態を可視化する米Microsoft(マイクロソフト)の技術「Azure FarmBeats」、米Walmart(ウォルマート)の研究機関Walmart Labsの需要予測製品「Smart Forecasting」やBosch Rexroth Indiaのトラクター用電動油圧ヒッチ制御、GE Indiaのデータを活用した風力発電技術「Digital Windfarm」。さらにはサムスン電子のバーチャルアシスタント「Bixby」に向けたバンガロールセンターを拠点とするAI(人工知能)開発などの製品やソリューションがある。
こうした成功の要因は、インドが持つ特質に起因していると考えられる。適応性ある多様な文化やデータ豊富な経済、協調的なエコシステムなどだ。さらにアジア圏へのアクセスもよく、インド政府が進めるデジタルインフラ「India Stack」(国民のデジタルIDを政府や民間事業者の様々なサービスと連携して使うためのAPI)や人口ボーナスを見込める市場などにも理由はある。
多国籍企業はこれらの特質を活用し、デジタル技術の導入と製品のイノベーションを推進するためにグローバルセンターをインドに設立している。こうした企業の大半は米国を拠点としているが、アジア太平洋地域を拠点とする多国籍企業もそうした動きを見せている。
Zinnovの調査によると、現在、インドにあるアジア太平洋地域を拠点とするグローバルセンターの64%以上のシェアを日本とシンガポールが占める。過去3年間だけでも、アジア太平洋地域を拠点とするグローバルセンターの60%以上がインドに進出しており、その中には同地域の大手ユニコーンやデカコーン(評価額が100億ドル以上の未上場企業)も含まれる。
1年で140万人近くのエンジニアが生まれる
日本企業約50社がインドに研究開発やデジタル関連、ITセンターを構える。サムスン電子、LG電子、現代自動車、起亜自動車などの韓国の多国籍企業もデジタル人材の拠点をインドで増やしている。これらのアジア太平洋地域ベースの多国籍企業は、立地、市場、スキルの面においてインドの利点を認識している。
輩出するエンジニアの数が非常に多いことも、グローバル企業がインドに拠点を置くことを検討する上で重要な動機となっている。Zinnovの調査では、毎年140万人近くの若いエンジニアがテクノロジーエコシステムに流入している。そのうち約12万5000人は研究開発職向きで、AI、機械学習、データサイエンス、ネットワークやサイバーセキュリティー、クラウドなどの技術スキルを有する。
多国籍企業がインドをどのように活用しているのか、インドに研究開発/ITセンターを設置している大手4社を見ていく。