欧米企業の受託業務で成長してきたインドのIT業界。米シリコンバレー企業とてインドのエンジニアや企業なしでは成長がおぼつかない。そして今やスタートアップが次々と生まれ、ユニコーンになる力を付けている。世界におけるインドITの役割は大きくなる一方だ。ITを活用した世界の製造拠点として存在感を増すインドの現状を、R&D系コンサルティング会社に所属する筆者が解説する。
2020年は覚醒の年となった。1月以来、新型コロナウイルスを前に世界は強制的に不況に追い込まれた。一部アナリストは、現在の経済危機を1930年代の世界大恐慌よりも悪くなると指摘する。新型コロナで世界中の企業が生産高を減らし、供給網の混乱、および財務の悪化に直面。無駄のないオペレーションのための代替方法を模索することが重要になっている。
感染が拡大したとき、世界の企業は製造のニーズを中国に大きく依存しており、供給網に深刻な影響を受け苦境に陥った。供給網のリスクを回避するために、企業や国は2次、3次製造拠点として他地域を探し、評価することが急務となった。インドは製造拠点として、長期的に見れば国や企業の選択肢たり得る。地理的位置やスキルのある労働力とテック人材、政府の柔軟な政策と規制、熱意あるエコシステムに支えられているのが理由だ。
ほとんどの先進国と発展途上国が経済的影響を受け、GDP(国内総生産)がマイナス成長となっている中、インドは例外の1つであり、2020年1~3月期には実質GDPはプラス成長を記録した。しかし同年4~6月期の数字を見ると、新型コロナ禍前の水準に戻るには道は長い。インド統計局は2020年8月31日、4~6月期のGDPは前年同期の23.9%減になったと発表した。2019年同期は前期比で5.2%だった。
インドは今後数四半期に成長分野を強化することが必要だ。この期間は、米ドルと比べた貨幣価値の違いや力強いローカル市場、分散した人口動態、安価な労働力、供給網の課題を革新的に解決しているスタートアップのエコシステム、製造業を後押しする重要な政策を様子見する期間としてみられるべきだ。
多くの専門家が、製造部門が通常の状態に戻るのは今から約1年後としていることから、インドには既存の製造能力を強化するための十分な時間がある。また、企業にかかっている財政的な圧力を考えると、インドのように労働集約的ではあるが資本集約的ではない低コストの立地は、良い製造拠点とみなせる。
インドには他にも利点がいくつかある。中産階級の急速な拡大、消費形態の変化、可処分所得の増加などにより、13億人が国内需要を押し上げると見込まれることや、インフラと経済の観点から、製造業が政府の重点分野になっていることがある。製造業はインド経済の重要な柱であり、GDPに占める割合は最大17%程度だ。
国内1900万の中小製造業(全中小企業の約26%、Zinnov調べ)は、すでにOEMやティア1(インドの都市の区分。人口などいくつかの条件がある)都市との提携を模索している。これらの中小企業は国内に広がっており、(デリー、ムンバイ、コルカタ、バンガロールなどの大都市である)ティア1と、次のティア2の各都市で5000以上の中小企業クラスターが確認されている。
ディープテックへ投資
製造向けIT産業に関しては、インドはエンジニアリング能力と技術力に強みがあり製造業の成長をけん引する。インドのITやITES(ITアウトソーシング)産業の中核をなすのは、高度な技術を持った人材プールである。保有スキルはロボティクス、付加製造技術、IoT(モノのインターネット)、サイバーセキュリティー、デジタルツイン、クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析、拡張現実などになる。
メーカーは品質向上やコスト削減、製品ライフサイクルの短縮、カスタマイズ、自動化、資産活用などのために、これらのスキルを活用できる。さらに、インドでは研究開発型の技術「ディープテック」へ世界からの投資が着実に増加しており、技術をベースとした製造業への推進力となることが期待されている。