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 「社会を作り変えたいなら、コードを書くのが一番だ」――。ソフトウエアが世の中を大きく変えている今、それを作り上げるコーダーの存在感は高まる一方だ。優秀なコーダーをひき付けられるかが、企業の競争優位性を大きく左右するまでになっている。本特集では5回にわたって、そんなコーダーたちの実像に迫る。

 テクノロジー業界の上層部では、コーディングは実力が大きく物を言う世界だと考える人が特に多い。能力がふつうの10倍もある人などいるのかとベンチャーキャピタリストやアントレプレナーにたずねると、いる、まちがいなくいると即答が返ってくる。

 (前回登場したコーダーでペイパルの開発者である)レブチンがあこがれたネットスケープ社の共同創業者、マーク・アンドリーセンは、おそらく千倍に達するだろうとまで言っている。

 「過去50年間に作られたすばらしいソフトウエアは、ひとりかふたりで開発したものばかりだと言えます。300人のチームで開発したものなんて、まずもってありません。ひとりかふたりのチームがせいぜいなんです」

 そのとおりで、少人数のものがずらりと並ぶ。フォトショップは兄弟ふたりが開発した。1975年にマイクロソフト立ち上げの原動力となったBASICは、ビル・ゲイツと中高で一緒だったポール・アレン、そして、ハーバード大学1年生のモンテ・ダビドフが数週間作り上げたものだ。

 世界に大きな影響を与えたブログツールのライブジャーナルは、ブラッド・フィッツパトリックがひとりで開発した。グーグルの元となった画期的な検索アルゴリズムは、ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの学生ふたりの手によるものだし、ユーチューブは3人、スナップチャットも3人だ(コードそのものはボビー・マーフィーひとりが開発した)。

 ビットトレントはブラム・コーエンがひとりで開発したし、ビットコインは「サトシ・ナカモト」と称する人物の作とされている。ファーストパーソン・シューティングゲームという数十億ドル規模の業界が生まれる元となった3Dグラフィックスエンジンも、ジョン・カーマックがひとりで開発したものだ。

 ごく少数の人が特大の成果を挙げられるのは、一風変わったアプリを試作する場合、ひとり、ふたりでやったほうが効率的に心に城を築けるからだとアンドリーセンは言う。10倍の生産性をたたき出せるのは、ゾーンに入り、そこにとどまれる人、複雑なアーキテクチャーを思い描く力がある人というわけだ。

 「そういう人がずっと起きていられたら、すごいところまで行けるでしょう。限界は、起きていられる時間なんです。2時間かけてあれこれを頭の中で整理したあと、そのレベルで働ける時間が10時間なのか12時間なのか14 時間なのかということですから」

 10倍ものパフォーマンスを発揮できる人はシステム思考が得意で、コンピュータープロセッサーの中を電流がどう流れるのかから、タッチスクリーンでボタンに触れたときどのくらいの時間で反応が返ってくるのかにいたるまで、技術のあらゆる側面に強く興味を惹かれるのだという。

 「好奇心と意欲、理解したいという強い想い、でしょうか。システムの働きに理解できない部分があるのは、彼らにとって、がまんのならないことなのです」