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 「社会を作り変えたいなら、コードを書くのが一番だ」――。ソフトウエアが世の中を大きく変えている今、それを作り上げるコーダーの存在感は高まる一方だ。優秀なコーダーをひき付けられるかが、企業の競争優位性を大きく左右するまでになっている。本特集では5回にわたって、そんなコーダーたちの実像に迫る。

 プログラミングは意志の力のみが物を言う才能の世界で、桁違いの能力差が存在するとコーダーは考えがちだが、そうなるのは、ある意味、当たり前である。

 なにせ、毎日、実感することばかりなのだ。コンピューターに怒ってもしかたないし、どやしつけたらテストの結果がまっとうになるなんてこともない。プログラマーのメレディス・L・パターソンが2014年に書いたエッセイから一節を紹介しよう。

 「ルートシェル相手に口論しても意味がない。相手によってコードが対応を変えることなどありえない。コードが自分の価値を決めるのであって、逆はありえないのだ」

 ふつうの人はできる振りをしたり言い逃れをしたり、言いくるめようとしたりするが、プログラマーは走るコードに敬意を払う。それ以上でもそれ以下でもない。フェイスブックを上場したとき、マーク・ザッカーバーグが書いたオープンレターの一節を紹介しよう。

 「ハッカーというのは、新しいアイデアがうまくいきそうかとかどう作るのが一番いいかとかを何日も議論するより、とりあえず作ってみて、どのあたりがうまくいくのかを確かめてみる人種です。だから、フェイスブックでは『論よりコード』とよく言うのです……また、とてもオープンで能力主義というのも、ハッカーの文化です。一番大事なのはアイデアやその実現であり、それを推進しているのがだれであるとか、その人が部下をたくさん抱えているとかは関係ないと考えるのです」

 プログラミングには、もうひとついい点があるとコーダーは言う。独学で、高学歴の人間と肩を並べられる工学分野はこれだけだ、と。ミドルスクール時代に独学でプログラミングを学び、大学院で情報科学の博士号を得たあと、会社をいくつも創業したコーダー、ジョアンナ・ブルーワーもそう考えるひとりだ。

 「科学・技術・工学・数学、いわゆるSTEMの世界で、博士号を持っているような人が完全に自学自習の人と肩を並べる分野は、コンピューターサイエンスしかないでしょう。すばらしい特徴です」

 一方、能力主義の根底には自画自賛の側面も否定できないと言うコーダーも少なくない。

 新入社員のころや高校などでは人付き合いのうまさで序列が決まりがちだが、そんな時代に、引っ込み思案で決まりの悪い思いばかりをしてきたら、プログラミングは客観的な世界であるとの考えに惹かれるのも無理はないだろう。

 たとえば、ハイ・パフォーマンス・コンピューティングの博士号を持ち、スタンフォード大学で教壇に立っているシンシア・リーは、1990年代から2000年代、コーダーとしてスタートアップで働いていたが、周囲には、若いころ、仲間はずれにされているとかわかってもらえないとか思っていた人がたくさんいて、みな、ここは、そういう口先人間がちやほやされるとは限らない世界だと大喜びしていたという。

「我々がいた技術世界では、切れ者っぽい印象の人やスーツ姿の人には疑いの目が向けられがちでした。いわば敵側ですからね。1980年代の青春映画を観ればわかりますが、当時の高校で人気だったタイプです。対して、我々は、オタクの楽園を作っていたのですから」