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 グローバルの通信インフラ市場で強大な存在感を示し、米政府による対中経済制裁の矢面に立ってきた中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)。米国の圧力を受けて西側諸国に広がったファーウェイ製品排除の動きは、バイデン政権誕生でどう変容していくのか。日本銀行時代に米国ランド研究所の客員フェローや北京事務所長などを務め、現在はキヤノングローバル戦略研究所の研究主幹である瀬口清之氏に聞いた。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)氏、キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
瀬口 清之(せぐち・きよゆき)氏、キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
1982年東京大学経済学部卒業、同年日本銀行入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。
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政権交代は米政府の対中政策にどんな影響を及ぼすでしょうか。

 大きな枠組みにおいてはバイデン陣営が表明してきたように、「米中間の対話の頻度が現在よりも増える」というのが大方の予想です。トランプ政権が掲げる外交政策には多くの(中国に詳しい)国際政治学者が反対し、結果的に中国の専門家はトランプ政権にほとんど参画できなかったという経緯がありました。そうした状況はバイデン政権で変わり、中国専門家が政治の中枢に加わることになるでしょう。

 政権交代によって想定されるもう1つの大きな変化は「バイラテラル(2国間)」主義から「マルチラテラル(多国間)」主義への回帰です。第2次世界大戦後に米国が自認してきた「世界のリーダー」としての役割を再び重んじるようになり、経済政策においても「アメリカファースト」から米国がグローバルの市場形成を先導するというトランプ前のスタンスに修正していくとの見方があります。従って中国との政策協議についても米国だけで決めるのではなく、同盟国や友好国の意見を考慮しながら対応する方向に変わっていくと予想されます。

ファーウェイ製品の排除問題はどうなるでしょう。同社は米中摩擦の焦点となってきました。

 まず欧米諸国に関しては、もともと英国やドイツなどはファーウェイに対して「国家安全保障上のリスクは認めつつも、民生分野においてはさほど深刻な問題ではない」というスタンスを取っていました。実際、英政府は2020年1月にファーウェイ製品の使用を一部認めていました。

 一方で、香港の統制強化や国内のウイグル族への弾圧、台湾への威圧的な姿勢といった問題を起こした中国に対し、欧州各国は強い不信感を持っています。かなり厳しい反中感情が沸き起こり、ファーウェイ問題についてもネガティブに対応する方向に傾いていきました。ファーウェイを容認していた英国は2020年7月になって同社製の第5世代移動通信システム(5G)基地局の排除を決め、フランスも同様の方針を打ち出しました。

 ただし英国のケースで言えば、ファーウェイ排除は安全保障上の理由からではなく、「米国の対ファーウェイ制裁強化によって同社製品の部品調達が滞れば、国内の通信インフラに打撃を与える可能性がある」と懸念してのことでした。もともと欧州諸国のコンセンサスは「低コストで高性能なファーウェイの5G基地局を導入すれば経済的なメリットが大きい」というもの。今後の米国がもし(同盟国の意向を踏まえ)ファーウェイ容認に動くのであれば、英国が同社を排除する理由もなくなるわけです。