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 1972年にファナックが富士通から分離独立して以降、同社の売上高営業利益率は平均して約30%と高い水準を保ってきた。同社を世界的トップ企業に育て上げた稲葉清右衛門氏(以下、敬称略)は、いかなる風雪の中でも利益を上げる強靭(きょうじん)な企業づくりを進めてきた。今日でいえば、新型コロナウイルス禍のような激しい環境変動があっても確実に利益を生み雇用を守る企業である。

 その目指す企業像として、当初は「小さな巨人」、途中からは「逞(たくま)しい巨人」という標語を掲げてきた。そのために稲葉が重視した経営指標は、「自己資本経営度」と「収益性」だ。つまり、借金などの他人資本に依存せず、自分の力で確実に適正な利益を生むことができるかどうか、である。その際、稲葉が重視した2つの要諦を紹介する。

「逞しい巨人」の標語
「逞しい巨人」の標語
(出所:ファナック)
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技術転用可能な領域にだけ参入

 1つめは、事業の絞り込みである。具体的には、既存事業の技術を転用できて相乗効果が見込める領域にしか新規参入しないということだ。

 例えば、ファナックがNC(数値制御)装置の次に参入した産業用ロボットは、「機械部」「頭脳部」「サーボ」という3部品で主に構成されている。最も重要なのは頭脳部であり、ロボットの信頼性は頭脳部で決まるといっても過言ではない。同社の場合、この頭脳部をロボット用に新規開発する必要はなく、NC装置のハードウエアをそのまま転用できた。NC事業で蓄積した高い信頼性や精度をロボットでも簡単に実現できるのだから、同社にとっては圧倒的に有利といえる。

 その後に参入したワイヤカット放電加工機や樹脂射出成形機も、同様の考えに基づいている。これらの事業で必要なモーター技術は、基本的にNC事業と同じものであり、機械部が異なるだけである。

 事業を多角化しようとすると、新規事業の初期段階ではどうしても費用が先行し、利益率は低下する。だが、新規事業に取り組まなければ、企業としていずれ成長の限界に直面する。このジレンマを解消する方策が、既存技術を転用できる領域に事業の幅を限定するということなのだ。既存事業の転用は、富士山登山に例えれば、麓からではなくて5合目から登るようなものであり、コストやスピードの面で優位に立てる。

利益は設計段階で決まる

稲葉清右衛門氏
稲葉清右衛門氏
(出所:ファナック)

 2つめは、一貫した商品開発思想である。これによって、設計段階でコスト競争力の高い商品を生み出せるようになる。

 製造業において、利益はどの段階で決まるだろうか。製造段階における不断の改善こそがコストを削減して利益を確保する鍵だというイメージはないだろうか。「乾いた雑巾を絞る」リーン生産方式などが、そのイメージを強化しているかもしれない。

 稲葉の考えは違った。利益は製造段階ではなく設計段階で決まるというのが稲葉の持論だ。設計段階で強靭な体質の商品を作らなければ、製造段階でいくらいじくり回しても利益は出てこないからである。