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 コロナ禍が建築工事費の単価に与える影響を確認するため、前回のマンションに続いて、今回は事務所に着目する。住宅と非住宅では需給構造や市場に大きな違いがあるからだ。分析の結果、市場で大きな割合を占める中小ビルの着工はコロナ禍でも堅調だが、工事単価は減少傾向にあることが分かった。

 国土交通省が発表した2020年11月時点の建築着工統計調査は、新設住宅着工数(全体)は前年同月比で戸数3.7%減少、床面積4.7%減少となり、いずれも16~17カ月連続で減少している。しかし減少率は前月から半減しており、持ち家が1.5%増と16カ月ぶりに増加に転じた。住宅市場に回復の兆しがうかがえる。一方、民間非居住建築物の床面積の前年同月比は、店舗と倉庫は増加、事務所と工場は減少、全体では減少となり厳しい状況が続いている。

 下図は、2019年1月から2020年11月までの東京で着工が予定された鉄骨(S)造事務所の棟数、床面積、工事費予定額、単価(工事費予定額を床面積で割ったもの)を、2019年1月の数値を基準値(100)として指数化したものである。2020年11月と2019年11月とを比較すると、棟数は180.0下落、床面積は64.2下落、工事費予定額は17.3下落となり、マンションと比較して大きく落ち込んでいる。一方、単価は28.2の上昇となっており、基準値との乖離(かいり)幅が床面積や工事費と比較して少ない。この状況はマンションと同じ傾向である。

建築着工統計の月次集計値を用いた指数グラフ(2019年1月=100) S造事務所・東京(資料:エムズラボ)
建築着工統計の月次集計値を用いた指数グラフ(2019年1月=100) S造事務所・東京(資料:エムズラボ)
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 しかし、この数値を事務所建築の市況として単純に読み取るのは早計だ。建築着工統計の数値は、季節や大規模プロジェクトの影響を受けるため月次の変動が激しく、特に様々な規模や仕様など個別性の強い事務所建築においては、このグラフからも分かるように単月で床面積や工事費が5倍以上上昇することも珍しくない。

 例えばコロナ禍の自粛要請期間直前の2020年3月は棟数が床面積や工事費の2倍近くの伸びを示し、2020年9月は棟数と比較して床面積や工事費が大きく増加している。どちらかというと統計値は後者のように大規模プロジェクトの影響を受ける場合が多いが、3月のように小規模の物件の潜在的需要も読み取れる。

 2019年1月から2020年11月までのS造事務所の規模別着工棟数(全国値)の割合(月当たり平均値)は700m2未満が84.5%、700~2000m2未満が10.9%であり、小規模な物件のウエートが高く、かつ安定的に推移している。これらの規模が全体に占める床面積の割合(床面積合計の平均値)は41.8%に留まるが、2019年1月以降2000m2未満の規模の着工床面積がマイナスに転じた月はない。一方、2000m2以上の物件は件数も限定的であり、着工床面積の動向も増減が激しい。事務所に関しては、物件規模を考慮した市場動向を把握していくことが重要である。

 本稿では特異な変動を補正するため過去3カ月の数値を用いた移動平均による集計も行った。下図はその試算結果である。前述の図と比較してかなりマイルドな動向が読み取れる。2020年11月の前年同月比は、棟数はマイナス85.3と大きく減少している。一方、床面積は50.3増加、工事費予定額は47.7増加、単価は44.8増加となっている。床面積や工事費のグラフからは着工を控えていた物件がマンション同様に9月以降に着工されて増加しているように読み取れる。しかし、その理由は9月に着工された大規模プロジェクトが移動平均値に寄与しているだけであり、11月単月の着工傾向を見る限り先行きは減少の兆しがある。

建築着工統計の月次集計値を用いた指数グラフ(3カ月移動平均、2019年1月=100) S造事務所・東京(資料:エムズラボ)
建築着工統計の月次集計値を用いた指数グラフ(3カ月移動平均、2019年1月=100) S造事務所・東京(資料:エムズラボ)
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 一方、単価は棟数や床面積と比較して一見安定しているように見えるが、これも鵜呑み(うのみ)にするのは危険である。

 下図を見てほしい。これは、前回のマンションの単価と今回の事務所の単価を比較したものである。事務所の単価はマンションと比較して大きく変動しているのが分かる。前述の図は、床面積の合計などの数値があまりにも大きく変動しており、単価の変動が少なく見えただけだ。

 事務所の単価は、その時々の着工物件の規模や設計仕様などの個別性に左右される。2019年12月や2020年9月は床面積と工事費が大きく増加した時期であり、大型プロジェクトの価格の影響がうかがえる。

建築着工統計の月次集計値を用いた指数グラフ(3カ月移動平均、2019年1月=100) RC造住宅・東京とS造事務所・東京を比較(資料:エムズラボ)
建築着工統計の月次集計値を用いた指数グラフ(3カ月移動平均、2019年1月=100) RC造住宅・東京とS造事務所・東京を比較(資料:エムズラボ)
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