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 建築のプライス(価格)とコスト(費用)の情報を提供する連載「建築単価ウオッチ」を、より実務に役立つように分かりやすく説明するコラム「市場動向が分かる『解説!建築単価ウオッチ』」を開始する。筆者は、建築単価ウオッチの生みの親である橋本真一氏(エムズラボ代表)だ。橋本氏は建設物価調査会の総合研究所部長時代に「建築単価ウオッチ」を企画・執筆していただいた。今は独立してコンサルタントとして活躍している。第1回は、五輪関連施設の需要が一段落した後も、プライスが高止まりしている市況を分析する。併せて、建築単価ウオッチの9月調査の結果から今後の市況を予測する。

 連載「建築単価ウオッチ」は用途別建築費の「プライス」と「コスト」、および「コスト」を構成する代表的な「資材」と「工事費」の単価を掲載している。このうち多くの建築実務者が興味を持つのは、実際の建物の取引価格である「プライス」の市況だろう。しかし、個別性の強い建築の価格を1つの単価で表現することは不可能である。そのため連載では、公表されている各種単価情報などを用いて、統計的な手法に基づいて算出した独自のデータを提供している。今回は、これらの単価情報とはどのようなものなのか、その概要を説明する。

 下図を見てほしい。これは建築単価ウオッチで使用している東京地区の単価と関連情報の変動を時系列的に指数で示したものだ。基準年は、東日本大震災のあった2011年である。

(資料:建設物価調査会総合研究所)
(資料:建設物価調査会総合研究所)
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 プライスの動きは、「JBCI」(建設物価調査会)の情報を用いている。JBCIとは、建設物価調査会が調査した様々な用途の新築時の契約価格情報で、総工事費の1m2当たりの単価として傾向を示している。ちなみに、JBCIはジャパン・ビルディング・コスト・インフォメーションの略称である。

 図に示しているJBCIマンションの数値は、東京23区で建設されたマンションの年間の中央値である。その動きを見ると、11年を境に上昇を続け、18年でやや低下したが19年には再び上昇している。

 JBCIマンションと同じような動きをしているのが「建築着工統計」だ。これは国土交通省が公表している統計資料であり、着工床面積や工事費予定額などが月次や年次で集計されている。図では居住専用住宅鉄筋コンクリート(RC)造の工事費予定額を着工床面積で割った単価の変動を示している。これが、JBCIマンションと近似した動きをしていることが読み取れる。

 JBCIマンションは実際に契約された金額に基づくプライス情報であり、建築着工統計の工事費予定額も建築主が建築工事届に示す情報であることから、両者は現実のプライスに近い情報特性を持っていると考えられる。

 では、プライスの原価となるコストはどのような状況なのか?

 これを示しているのが「建築費指数」(建設物価調査会)である。図中には建築単価ウオッチに掲載している工事原価指数を示している。工事原価とは、総工事費から利益などを含む一般管理費を除いた金額であり、建物を建設するために現場で要する費用(コスト)に相当する。建築費指数は、そのようなコストの動向を示した一種の物価指数であり、工事原価を構成する多くの資材価格や工事費の変動を月次で集計して作成している。

 このほかに、工事原価を構成する資材の動向は、「建設資材物価指数」(建設物価調査会)で把握することができる。なお、建築単価ウオッチでは掲載していないが、「毎月勤労統計」(厚生労働省)は建設業の人件費の動向を把握する上で役立つ。

需要後退してもプライスが上昇した19年

 これらの単価情報を見るとプライスと比較してコストの変動は緩やかになっているのが分かる。すなわち、プライスは景気や需給などの市場経済の影響を敏感に受けて大きく変動するものであり、工事費の根拠となるコストの変動とは必ずしも一致しない。その違いは、当事者の利益にも表れてくる。

 17年まではコストと比べてプライスは大きく上昇していたので施工者に有利な売り手市場となっていた。その背景には東京五輪関連のプロジェクトやインバウンド効果などがあった。18年ごろは東京五輪の発注も一段落し、今後の建設需要の落ち込みなどがささやかれ始めた時期でもあり、プライスの上昇にも一服感が見えた。

 ところが、19年は再び上昇に転じている。原因は何か――。

 注目すべきは労務費の上昇である。毎月勤労統計は、建設業全体の賃金水準を示し、技能労働者の賃金も含まれる。建設業の賃金水準はほかの製造業と比較して低水準であることが長年指摘されており、技能労働者不足は深刻な問題となっているが、統計からは賃金の改善傾向がみられる。つまり、技能者不足からくる労務費の上昇がプライス高止まりの要因の一つと推測できる。

 過去にはバブル経済崩壊後の建設費ダンピングのような状況もありプライスの急激な下落による買い手市場となった時期もあったが、現時点では若手技能者の育成など魅力ある建設産業への転換の試みがプライスにも表れているように感じられる。もはや単に需給バランスだけでプライスを語る時代ではない。