「予約してある便を1時間前の便に変更したいのですが、できますか」「確認いたします。お手持ちの搭乗券をカメラに向けていただけますか」――。
2020年9月中旬、東京・羽田空港。出張者とおぼしき男性搭乗客に応対していたのは、デジタルサイネージに映ったアバターだった。日本航空(JAL)がパナソニックと共同で実施した、アバターによる旅客向け案内の実証実験の一幕だ。
「聖域」の接客業務、アバター活用で在宅勤務を実現
アバターを操作する、いわゆる「中の人」は離れた場所にいるJALグループの空港スタッフだ。応対用のヘッドセットを装着して、パソコンの画面越しにサイネージの前に立つ客と対話する。
アバターの表情はくるくると変わる。これはスタッフ用のパソコンに付いているカメラがスタッフの顔の特徴点を抽出し、それをパナソニックのクラウドサーバーがリアルタイムで解析してアバターの表情に即時反映させているからだ。スタッフが操作してアバターは「礼をする」「ほほえむ」「驚く」といったしぐさをできるほか、搭乗案内のボードも掲げられる。
消費者向けサービスを提供する企業、とりわけJALのように接客のきめ細かさを競合他社との差異化要素と考える企業にとって、接客業務はある種の「聖域」になりがちだ。働き方改革を進めようにも、対面による接客をリモート化しようという動きにはつながりにくいケースが多い。
JALはこの聖域にメスを入れた。空港スタッフの接客業務に在宅勤務を積極的に採り入れて業務効率化や働き方改革を進める手段として、アバターに強い関心を示しているわけだ。新型コロナ禍においては「感染リスクの高い、人同士の接触を避ける」という副次的な効果もある。
「JALのおもてなしの良さを損なうことなく、一方でスタッフが自宅で制服を着たりメークしたりすることなく業務に就けるよう、スタッフがアバターを介してお客さまに対応する形を採用した」。JALのデジタルイノベーション推進部で空港スタッフの働き方改革に取り組んでいる落岩麻衣氏は、アバター活用の狙いをこう話す。