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 「未来のデザイン」(Future Design)を手掛けるPwCコンサルティングと、業界有識者との対談から、ヒントを探る。デザイン・イノベーション・ファームであるTakramの田川欣哉代表をゲストに迎え、コロナ後の社会の再デザインについて議論した。(対談は田川氏、PwCコンサルティングのパートナーである三治信一朗氏。モデレーターはPwCコンサルティングでディレクターを務める三山 功氏)

まず、コロナ禍の前後で変わったことについて考えてみます。仕事への取り組み、働く場所は圧倒的に変わりましたよね。未来が早回しで来ただけだという人もいますが、どうお考えですか。

田川 コロナ禍によって、これまで低速だった企業にもギアが入った感じですね。その意味では未来の早回しと言えなくはない。ただ、コロナがなかったら起こっていなかっただろうと思われることも実際には起こっています。個人のレベル、組織のレベル、地域や国のレベル、様々なレベルで変局が生まれていると思います。

写真1 Takramの代表取締役・田川欣哉氏
写真1 Takramの代表取締役・田川欣哉氏
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三治 そうですね。リモートで意思決定も実行もできるようになりましたからね。自動化やリモート化についての考え方は大きく変わりました。例えば、人を廃して搬送にロボットを使うとか、無人化を志向して積極的にロボットを採用するケースが出てきています。2020年は「リモートテクノロジー元年」として刻まれるイメージです。

 変化点は、心理的バリアがはずれたことですね。今までは、例えばデジタル技術について、知ってはいても使う必然性を感じていない人たちが多かった。ところが、コロナ禍で人が介在すること、人が集まることを回避したいと考えるようになって、そこに必然性が生じて、人々の意識が一気に変わりました。

デジタル化の「本質的な効果」を見極めよ

田川 そんな中で重要なのは、デジタル化という手段レイヤーの話が、社会への貢献、企業の存在意義、内在的創造力の発揮といった、企業の目的レイヤーのレベルにも大きな影響を及ぼす流れになっていることです。この影響がどのようなものになるのか、そこを読み違えると、経営にダメージを与えかねません。

もう少し具体的に教えて下さい。

田川 感染症対策から始まったテレワークなどの導入で、オフィスや通勤、出張などのコストが激減していますよね。経営者の中には、その大きさに驚き、コロナ対策とは別の切り口の、コスト改革の一部として定着させようと考えている方々も多いはずです。その文脈では、デジタル技術はコスト改革の「手段」と捉えられています。ただ、こうした短期目線のデジタル導入は、その副作用として組織の弱体化を招くことがあります。

 そのような副作用を超えてデジタル技術を効果的に活用するには、デジタル化が組織にプラスの影響を与えるよう、入念に設計しなければなりません。端的に言えば、働く人たちがより良く働けるためのエンパワーメントに寄与しているかどうか、という点に行き着きます。エンパワーメントを実現するために緻密に練られたデジタル変革(DX)は、コスト改革と組織改革を同時に進めることにつながり、組織の競争力を飛躍的に伸ばすでしょう。つまり、DXは企業にとって毒にも薬にもなり得るわけです。

 これが表面化してくるのは2021年以降でしょう。結果は玉石混交で、うまく脱皮する企業、組織崩壊する企業の両方があるはずです。今は、企業によるデジタルシフトの巧拙の違いが外からは見えませんが、2021年後半になると、はっきりしてくるでしょう。

触れている情報量は、おそらく人によってそれほど変わりません。にもかかわらず、認識に違いが生じるのはなぜなんでしょうか。

田川 経営層や補佐クラスの人たちの、ソフトウエアあるいはデジタル化の“本質”についての理解度じゃないかと思います。デジタル化によって、コミュニケーションをマイクロ化できること、あるいはドキュメントを関係者みんなでシェアし共同編集できるようにすること、情報の遍在化のためのコストをゼロに近づけられること、そこに現場への権限移譲が伴えば組織が自走し始めること、こういったデジタルの特性を、どのように組織のガバナンスに生かせるか。そのあたりの経験や知見、センスが大切です。その利点を心底分かっているかどうかが分かれ目なのではないかと思います。

 例えばオンラインで会議をやっているケースでも、それを使って極めて細かいレベルまでのマイクロマネージメントを実施しているケースを目にします。ミーティングがオンラインで簡単に開催できますからね。ただ、そういった姿勢は、もはや害でしかなくて、組織は従来以上に硬直的になってしまいます。

しかも今回は、その変化が続いています。

田川 そうですね。今はリアルとデジタルという、互いに全く違う環境が、行ったり来たりと、カオス的に混在しています。新型コロナの影響もあり、変化のスピードが速い。だから、どこに目標を定めたらいいかを予測できず、予測・計画・実行という既存のオペーレションに乗せられない。そこに縛られている人たちは、なかなか動けないわけです。そこから脱するには、情報共有、権限移譲、試行錯誤を常に行える余白を確保して、行ったり来たりの間のバランスを、素早く、ちょうどいいところに持っていく、そのための仕組みや体制が必要です。