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 「未来のデザイン」(Future Design)を手掛けるPwCコンサルティングと、業界有識者との対談から、ヒントを探る。今回は、「公共の再定義」を目指してビジネス展開するPublic dots & Company(PdC)の伊藤大貴氏をゲストに迎え、コロナ後の社会の再デザインについて議論した。

 (対談は伊藤氏、PwCコンサルティングのパートナーである三治信一朗氏。モデレーターはPwCコンサルティングでディレクターを務める三山 功氏)

コロナ禍の影響もあって、いま、多くの企業経営者が、経営、あるいは未来の再デザインに興味を持っています。伊藤さんは「公共の再定義」を目指していらっしゃるようですが、PdCを立ち上げてからのこの1年で、今後の社会をデザインするためのポイントとして何か感じられてたことはありますか。

伊藤 少なくとも、コロナ禍で価値観は変わっていますよね、企業も自治体も。今年(2020年)の夏の終わりごろでしたか、相模原市の職員の方が相談にいらしたんです。相模湖の近くに藤野という町があるんですが、そこの、これからのまちづくりについて。

 藤野は人口2000〜3000人程度の小さな町で、東京までは1時間半ほどの距離にあります。もともと芸術で有名な町だったこともあって、意識の高い人たちが集まっているんですが、コロナ禍で、東京勤務と藤野でのテレワークの両立が容易になった今なら、もっと人口を増やせるのではないか。といっても、いきなり5万人などというわけではありません。そんなことをしたら町が壊れてしまいます。だから、そのエリアに適正な人口規模や暮らしを考えたまちづくりをしたい、そうおっしゃっていました。これって、価値観の変容があったからこそ、現実味を帯びてきているわけですよね。

Public dots & Company(PdC)の伊藤大貴氏
Public dots & Company(PdC)の伊藤大貴氏
(撮影:黒田菜月)
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三治 そういう価値観を、自治体から主張しないと勝てない時代になってきているわけですね。そのためには行政側に、価値観の発信、呼び込み、定着のための取り組みを積極的に手掛けようという意識改革が必要になりますね。

 そういうことを推し進めると、どこにどのように納税するか、そのとき戸籍や住民票はどう扱うのか、そういったことも考えなければならなくなりそうです。話は、家族の一人ひとりが違う価値観を持ったらどうするのかなど、家族観にも及びます。そういうことを含めて、行政の未来観の設計が必要になるのかもしれません。もちろん、そういったデザインに合うように、行政の仕組みも変えていくことになります。

伊藤 そうですね。そこに企業も参加して、行政の役割分担を変えていくべきです。

“逆公募型”で民間が自治体に資金投入し改革を推進

 実は今、社会課題の解決に向けたインパクト投資と、公共が持つ価値、そして企業の役割という視点をすべて含んだ、新しい事例が生まれそうなんです。僕らは「逆公募型プロポーザル」という形で世に問おうと思っているんですが、その第1弾が東京海上グループのイーデザイン損保の案件です。11月に正式リリースしました。

 話の始まりは、企業から相談があったことです。「企業として自治体に寄付をしたい」と。それには、どんな方法があるか尋ねられました。

ふるさと納税のようなものですか?

伊藤 自治体を支援するという点では同じですね。ただ、ふるさと納税は自治体によってメニューが決められていますし、規模も大きくありません。相談内容は、もっと主体的に社会に関われる方法はないか、というものでした。

 地方自治体には、寄付受納という制度自体は元々あります。これは企業などが一方的にお金を寄付するもので、使い道は自治体で決めることになります。企業としては、寄付したお金がどう使われるかについて、意見を言うことはありません。でも、イーデザイン損保は、そういう寄付先を探しているわけではありません。

 イーデザイン損保は「あなたにぴったりの確かな安心・安全をリーズナブルに」をモットーとして掲げています。その一環として、安心・安全なまちづくり、安心・安全な移動のために投資しようというわけです。

 みんなが安全運転すれば、ユーザー便益は高まります。本来、保険会社はそういった安心・安全を提供したいと考えています。ところが保険商品だけを見ると、安全運転を徹底させるという形でユーザー便益を高めるものには、必ずしもなっていません。それで、「安全な社会ができたときには、別の形で、利益の一部を自治体に戻したい」→「そのとき、戻す先の自治体は、当然、移動の安全について一生懸命考えてくれるところがいい」→「そういう自治体を探してほしい」という話になりました。