全2127文字
PR

 機械学習や深層学習(ディープラーニング)などAI(人工知能)分野の有力な国際学会である「NeurIPS」が2020年12月6日からオンラインで開催され、日本の企業や研究機関の研究者の論文が最難関の口頭発表に次々と採択された。

 今回は大学や研究機関に所属する2つの研究者チームにフォーカスする。両チームとも採択率がわずか1%の口頭発表に選ばれた。高評価の決め手となったのは、異分野の研究者のコラボレーションである。

NeurIPSのオーラルプレゼンテーションに採択された、大阪大学と神戸大学の研究チームのページ
NeurIPSのオーラルプレゼンテーションに採択された、大阪大学と神戸大学の研究チームのページ
(出所:NeurIPS 2020)
[画像のクリックで拡大表示]

「機械学習の研究者には思いつかない」

 大阪大学大学院准教授の松原崇氏と、神戸大学大学院准教授の谷口隆晴氏らの研究は、液体や波などによる物理的な現象を深層学習のニューラルネットワークで学習するものだ。今後、様々な自然現象を深層学習し、解析に応用することに道を開いた。

NeurIPSのオーラルプレゼンテーションで研究を発表する大阪大学の松原崇准教授。論文名は「Deep Energy-based Modeling of Discrete-Time Physics」
NeurIPSのオーラルプレゼンテーションで研究を発表する大阪大学の松原崇准教授。論文名は「Deep Energy-based Modeling of Discrete-Time Physics」
(出所:NeurIPS 2020)
[画像のクリックで拡大表示]

 液体や波などの様々な自然現象をモデル化する際に課題となっているのが、エネルギーが保存されたり、時間とともに減少したりする現象を考慮することだという。エネルギーを過大に評価したり、過小に見積もったりしてしまうのだ。

 「離散勾配法」と呼ぶ数学手法でエネルギーの減少を表現することは可能であるものの、ニューラルネットワークに適用した例がない。そこで機械学習において誤った学習を補正するのに使われる「誤差逆伝播法」と呼ぶ手法を応用。ニューラルネットワークによる離散勾配の計算に成功した。谷口氏は「離散勾配によって、微分の傾きによる単純な差分ではなく、連鎖律が成り立つような巧妙な差分を求めることができる」と説明する。

 学習に活用するニューラルネットワークは3層である。エネルギーを計算する際は、このネットワークを両方向の6層分として利用して、減少を考慮した結果を出す。3層を逆方向に利用する際、どのように減少させるのかは他の1層に記述しており、減少させないように設定すればエネルギー保存則を考慮できるという。

 今回の研究は機械学習が専門で情報系の松原氏と、数学や物理など自然科学が専門の谷口氏という異分野の研究者のコラボレーションによる成果だ。松原氏は「同じニューラルネットワークを両方向で利用するというのは、機械学習の研究者の知識だけでは思いつかなかった」と振り返る。

 学習したモデルは式のレベルでエネルギー保存則を保証しており、工業製品の評価などに応用できるという。「ちょっとした材質の違いが強度などにどのように影響するのか、データ駆動型でより精緻にシミュレーションできるようになる。詳細が不明な現象であっても、観測データからAIが物理法則を抽出し、分析や予測が可能になるかもしれない」(谷口氏)

 今後の発展について松原氏は「ディープラーニングを用いたAIは自動運転など様々な分野に応用されていく。そうした際にAIがあり得ない結果を出さないようにする必要がある。今後の研究成果はそうした分野にも応用できるのではないか」と話す。