AIの主要分野となった、マシンラーニング(機械学習)やディープラーニング(深層学習)の世界最高峰の学会とされる「NeurIPS」。これまで影が薄かった日本勢だが、2020年12月の学会では論文の口頭発表の採用が前年の0件から17件と急増した。NECやサイバーエージェントのような企業も健闘した。要因は何か。日本のAI研究をけん引する、理化学研究所革新知能統合研究センターの杉山将センター長に聞いた。
(聞き手は市嶋 洋平=シリコンバレー支局)
今回の日本勢が躍進した理由をどのように分析しているか
まずNeurIPSのような場に出てくるプレーヤーが増えている。これは今までと変わってきているのでいいことだ。企業では、特許や製品開発の優先度が高かったが、論文の発表が推奨されるようになっている。学会で活躍するのが企業で優秀な人材を採用するのに必要になっている。
理化学研究所(理研)の革新知能統合研究センター(AIPセンター)では、全体で21件が採用され、そのうち2件がオーラル、7件がスポットライトの口頭発表となった。それなりの成果だが、日本のオールスターともいえるメンバーでなんとか実現している。
今回、AIPセンターで効果があったと思うのは異分野の交流だ。AIPセンターを2016年に設立し、17年にオフィスを構えて本格的に活動を始めた。17年、18年はリーダーを雇って、自分たちのチームを作ってもらった。現在、「汎用基盤技術研究」、医学や材料などの分野での活用を目指した「目的指向基盤技術研究」、倫理や法制度などを扱う「社会における人工知能研究」の3つのグループに約40のチームがある。
段階的に取り組んできており、19年ぐらいからチーム間の交流を深めていった。今回それがようやく形になったともいえる。例えば、機械学習のチームの研究者が、数学を研究しているチームのセミナーに参加。それをきっかけに数学者が集まってきてくれて一緒に研究し、投稿した論文がオーラルに採用された。
ニューラルネットワークにおいて入力から出力だけでなく、出力から入力が求められるという内容で、それを理論的に証明したものだ。アプリケーションとしては、学習内容を他の分野で適用する転移学習などで活用できると思っている。