トヨタ自動車系のアドヴィックスが、ブレーキの方式を拡大させる。独自構造の電動油圧ブレーキに20年以上こだわってきたが、方針の転換を決めた。2020年代前半にも投入する次世代品は、ドイツのメガサプライヤーと同じ土俵で真っ向勝負する。ガソリン車への採用を目指し、各社は低コストで小型のブレーキの開発を急ぐ。
アドヴィックスが大きな決断を下した。電動油圧ブレーキ開発を担当する児玉博之氏(同社先進技術開発部部長)は、「小型で軽量にするために、アキュムレーター(蓄圧器)のない方式の次世代品を投入する」と明かす。
本特集の第2回でも触れたが、電動油圧ブレーキは「アキュムレーター式」と「オンデマンド式」に大別される(表)。
前者はアドヴィックスの専売特許ともいえる方式で、1997年に量産が始まったトヨタ自動車の初代「プリウス」からその歴史が始まっている。ブレーキの油圧を内部にあるモーターで作り出してアキュムレーターにためておき、ブレーキペダルを踏んだときにタイヤ側に油圧を伝え、ブレーキを作動させる。瞬時に大流量の油圧を供給できる特徴がある。
一方のオンデマンド式は、内蔵するモーターでブレーキのマスターシリンダーを押し、油圧を制御する。アキュムレーターがない分、部品点数を減らせる。オンデマンド式ではドイツのBosch(ボッシュ)やContinental(コンチネンタル)、ZFが先行する。
前後輪ブレーキの独立制御で巻き返し
アドヴィックスは、小型車向けの次世代品でオンデマンド式を初めて製品化する。当面、中大型車向けにはアキュムレーター式の製品を用意していくが、「将来的にはアキュムレーターはなくなる」と見据える(図1)。
オンデマンド式とアキュムレーター式の使い分けは、Dセグメントの中型車が境界線になる。トヨタの車両で言えば、セダンの「カムリ」まではオンデマンド式が主流になりそうだ。同じDセグメント車でも、「RAV4」などのSUV(多目的スポーツ車)は車両質量が大きいため、大きな制動力を発揮できるアキュムレーター式を使う。
同社が方針を転換させる背景の1つがトヨタの動きだ。同社は2020年2月に欧州で発売した新型の小型車「ヤリス」のハイブリッド仕様車に、ボッシュの電動油圧ブレーキを採用した。欧州市場以外の車両にはアドヴィックス製の部品が使われているが、長く守ってきた単独供給の地位が揺らぐ。
トヨタが部品調達をグループ企業からメガサプライヤーに変更する動きは過去にもあった。例えば、デンソーの単独供給だった自動ブレーキ用センサーは、15年にコンチネンタルとの複数調達に改めた。トヨタの狙いは、「部品メーカーに競争原理を持ち込み、大幅にコストダウンすること」(同社の担当者)だ。