経済産業省はDX(デジタルトランスフォーメーション)を次のように定義している。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」――。
つまりDXの中心テーマはビジネスモデルの変革であるはずだが、実態としてそうできているのだろうか。
ITエンジニア向け調査の「全国スキル調査2020」では999人の回答を得たが、同調査はIT一般に携わる人たちを対象としているため、自社のDXに対して十分な情報を持っている回答者だけとは限らない。そこで自社のDXの進捗に対して「分からない」とした回答者、および職業を学生とした回答者を除き、568人で分析した。
主流はコスト削減、それでいいのか
回答者の所属企業がどんな領域(テーマ)でDXに取り組んでいるのかを複数回答で聞いたところ、5領域のうち、最も多かったのが「業務の効率化によるコスト削減」で71%だった。一方、DXの本命とも言える「新規製品・サービスの創出やビジネスモデルの根本的な変革」は53%だった。日本企業はDXに取り組むとき、ビジネスモデルの変革よりもコスト削減に向かおうとする志向が強いようだ。
ビジネスモデルの変革は難しく、コスト削減は易しいのだろうか。それを明らかにするため、DXに取り組む5領域について進捗度合いを集計した(当該領域に取り組んでいないとした回答は集計から除外)。
進捗が「ビジネスにおける定量的な成果が既に十分出ている」「実装し、今後のビジネスにおける定量的な成果が見込まれている」「方針が決まり、実装段階にある」とポジティブな回答をした割合を見ると、5つの領域に大きな差はなかった。
「コスト削減」は合計で約53%であり、「ビジネスモデルの根本的な変革」は約50%と、その差は3ポイントほど。コスト削減のほうがビジネスモデルの変革よりも特段易しいというわけではなさそうだ。
では、コスト削減は全社的に同意を得やすい領域なのだろうか。情報システム部門と経営層から一般社員までの役職で、5つの領域にどの程度積極的に関与しているかをクロス集計してみた。すると役職によって積極性に差が認められたものの、領域による差はあまりなかった。
最も消極的なのは一般社員で、関与が「積極的」「やや積極的」と回答した割合が5領域で30~38%だった。次に消極的なのは情報システム部門(同54~59%)。情報システム部門は専門家として経営層と一緒にDXを推進すべき立場であり、こうした消極性はDX推進のブレーキになりかねない。