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 職員が互いに知恵を出し合う「集合知」を支え、かつ人件費削減にも効果のあるコミュニケーションツールが自治体に広がり始めている。トラストバンク(東京・目黒)の自治体専用チャットツール「LoGoチャット」である。

「LoGoチャット」の画面イメージ。「ユーザーグループ」をつくって議論している
「LoGoチャット」の画面イメージ。「ユーザーグループ」をつくって議論している
(出所:トラストバンク)
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 LoGoチャットは、自治体など行政機関専用の閉域網であるLGWAN(総合行政ネットワーク)のASPサービスである。LGWANだけでなくインターネットにもつながるため、スマートフォンからも操作できる。情報セキュリティー対策としてデータを保存できなくしたりスクリーンショットを撮れなくしたりできるほか、職員がスマホを紛失した際には強制的にIDを停止できる。

年間2億円の人件費削減効果

 新型コロナ禍で試験導入する自治体が急増し、同社によると導入自治体数は全自治体の3分の1程度に当たる549自治体に達したという(2020年10月末時点)。いち早く導入したのが埼玉県北部に位置し人口約14万人を抱える深谷市だ。同市の職員がLoGoチャットを広く使うようになったきっかけは、2019年10月の台風19号だった。

 深谷市は台風19号によって近隣の河川が氾濫する恐れがあったため初めて避難所を開設した。そのとき、消防職員らが迅速な情報共有のために活用したのが、実証試験のために全職員にIDを配ったばかりのLoGoチャットだった。

 もともと消防職員は3交代制の勤務であり、全員が一堂に顔をそろえる機会はない。一方、自治体の災害対策本部は被害情報を時系列で急ぎ整理する必要がある。消防と対策本部のそれぞれが確認した情報やGPS(全地球測位システム)データ付きの写真データをLoGoチャットでやりとりしながら集めれば、効率的に情報共有できると考えた。

 加えてLoGoチャットなら緊急時に一斉送信して情報を伝達・共有できる。従来は職員を緊急招集するにも防災担当部署が全職員の携帯電話に個別に電話をしていた。また防災担当部署は当初、緊急時の情報共有に職員の私用LINEアカウントを使おうと考えていたが、管理に手間がかかりすぎると二の足を踏んでいた。「これは使えるぞという手応えがあった」。深谷市の斎藤理栄企画財政部ICT推進室主査は振り返る。

 深谷市がLoGoチャットのIDを全職員に配って実証試験を始めたのは2019年9月だった。トラストバンクから先行導入をもちかけられ、新しもの好きの職員にLoGoチャットの利用方法を研修していた矢先に台風への対応を迫られて活用が広がったという。

 深谷市は私物端末の業務利用(BYOD)を認めており、職員の8割が個人所有のスマホにLoGoチャットアプリをインストールしているという。チャット相手として一般企業もゲスト参加できるため、ICT推進室ではシステムベンダーとの打ち合わせにも活用している。

 2020年4月、深谷市は半年間の利用を踏まえて導入効果を試算した。すると、全職員1142人が使った場合、メールの送受信や会議日程の調整などの時間が減り、1年間で約2億円相当の人件費削減効果があると分かった。ただ斎藤主査は「削減効果は5億円ほどまで高まるのではないか」とみる。効果はアンケートに答えた一部職員の回答を基に試算したものの、アンケート当時はLoGoチャットを使う職員が少ない部署があったり職員によっては電話や会議などに多くの時間を割いていたりしたからだ。

 深谷市は現在、LoGoチャットをトライアル期間として無料で使っている。有料契約を結んでも利用料は年間で数百万円程度という。費用対効果が高いと判断し、2021年度からは有料で使う方針だ。