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液化水素の事業を進めるHySTRA同様、水素(H2)以外の水素キャリアを推進する企業もそれぞれ推進組織を設立し、仲間づくりやプロモーションを展開している(表2)。その中で、競合より一歩早く事業化を進めてきたのが、「メチルシクロヘキサン(MCH)」という材料を扱う「次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)」だ。主導するのは、千代田化工建設である。
MCHは、実は身近な存在だ。インクの修正液の溶剤として一般にMCHが使われているからである。常温常圧で液体、強い毒性や臭いはなく、腐食性もなく、長期貯蔵にも問題がない。水素キャリアの中でも最も扱いやすい材料といえる(図6)。
これが水素キャリアになるのは、MCHを350~400℃に加熱するとH2を吐き出して(脱水素して)、トルエンという材料に戻るからである注6)。その逆の水素化も容易だ。トルエンもかつてはマニキュアの溶剤として使われるほど、急性の毒性は弱く、扱いやすい。
注6)開発した触媒は「SPERA触媒」、そしてMCHは一般の人も馴染みを得やすいようにと「SPERA水素」と呼んでいる。SPERAは「希望・信頼」の意味のラテン語。
消防法上はガソリンと同じ扱いであるため、それら既存の石油類の流通システムが利用できるのも強みである。