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 水素キャリアの1つであるアンモニア(NH3)のポテンシャルは非常に高い(図10)。水素キャリア候補の中では最もコンパクトで運搬や貯蔵が容易である。常温常圧では気体。沸点が-33.3℃で一見、液化には大きな電力が要りそうだが、20℃でも8.5気圧まで加圧すれば液化する。これは自転車の空気圧程度の圧力で、人力でも実現できる。つまり、わずかな電力で液化できるのである。

図10 水素社会よりむしろ「アンモニア社会」?
図10 水素社会よりむしろ「アンモニア社会」?
エネルギーキャリアとしてのアンモニアの利用手段や用途の例(a)。水素と同様、直接燃焼させてもCO2は排出されずゼロエミッションである。水素でできることのほとんどはアンモニアでもできる。水素に比べて貯蔵や運搬などの取り扱いが容易で、すでに流通システムも整っていることから、「水素社会」よりも「アンモニア社会」が先に来る可能性すらある。グリーンアンモニアコンソーシアムでは2025年までに最大100万トン/年のブルーまたはグリーンアンモニアを輸入する計画だが、100万トン/年は現在の日本が輸入するアンモニアの量に相当する。(図:日経クロステック)
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 特徴はまだある。用途の幅が広いことだ。上述のMCHは貯蔵や運搬向けとしては優れているが、直接燃焼させることはできない。MCHに水素を載せる前のトルエンは高価で、それを燃してしまう選択肢はないからである。

 一方、NH3であればH2と同様に直接、火力発電所の燃料として使える。エネルギーキャリア以外にも、肥料や尿素のほか、さまざまな化学材料の原料、NOxなどの脱硝材料、さらには半導体の窒化膜生成にも使われている。こうした用途の広さから、水素キャリアとしての利用が始まる前に既に世界で年間1.8億トンが生産されている。

 課題は人体には有毒で、しかも悪臭がすること。また、金属腐食性が強く、パイプラインに一般的な金属が使えないことだ。

4年後には100万トン規模で輸入

 水素キャリアとしてのNH3を推進するグリーンアンモニアコンソーシアム(GAC)は、他の水素キャリア推進組織を圧倒する勢いで会員数を伸ばし、既に80を超える会社・機関が参加している。そのロードマップでは2021年にはJERAが、愛知県碧南市にある国内最大級の石炭火力発電所の1基(1GW級)で20%の混焼を始める予定だとする。このため、すぐに消費量が10万トン単位で増え、2025年には最大100万トンのCO2フリーアンモニアを輸入する計画だ注9)

注9)実は100万トン/年のNH3は現在の日本が海外から輸入しているNH3に並ぶ量である。世界において生産されるNH3の8割は化学肥料の原料に使われている。ところが、日揮ホールディングスによれば、現在の日本は化学肥料の大半を海外から輸入し、国内での生産量はわずか。このため、NH3の輸入量もそれほど多くないのだという。

 2030年には同300万~500万トン/年にまで拡大する。最近までの日本政府の水素の利用規模目標は2050年に500万~1000万トン注10)。NH3の利用規模はこれを大きく超える勢いである。

注10)ただし、2020年12月に政府は2030年に1000万トン規模の水素を主要燃料として使うことを目標に掲げる方針だと報道された。