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水素キャリアの最後は水素吸蔵材料だ。NH3の次に最もコンパクトになる水素キャリアで自家放電がない。材料によっては可燃性もなく、H2の出し入れの際のエネルギー損失も少ない。ある一点を除いては理想的な材料だ。そのある一点とは重いこと。多くは合金、つまり金属の塊でPdなど重元素を使う場合もある。たとえ、水素化マグネシウム(MgH2)などでもLiイオン2次電池より重くなるのは不可避だ。
逆にいえば、長距離を持ち運ぶ以外の用途では有望な水素キャリアである。これに目をつけたのが清水建設だ(図19)。同社は産総研と共同で水素吸蔵材料とその使い方を研究。2019年からは「建物付帯型水素エネルギー利用システム(Hydro Q-BiC)」として街中で実証実験を始めた。利用者に近いところで、熱の制御も含めたトータルなエネルギー管理をするのが狙いだ。2021年春には金沢市にある同社の北陸支店ビルにこのシステムを導入し、ゼロエネルギービルの実現を目指すという。
一見、蓄電池と役割が重なるが、Hydro Q-BiCでは蓄電池も利用する。蓄電池は再エネの出力の短期的変動、水素吸蔵材料は長期的な変動を吸収する手段として使い分ける。