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 菅義偉首相は2020年10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。いわゆる「2050年カーボンニュートラル宣言」だ。日経クロステックでは同宣言を推進する上で、2020年を振り返り2021年に注目したい先端技術をピックアップ。専門記者が分かりやすく解説する。

 電気自動車(EV)をはじめとする電動車両で温暖化ガスの排出を実質ゼロにする上で課題となるのが、リチウムイオン電池の扱いである。EVの生産から廃棄までのライフサイクルで最も二酸化炭素(CO2)が発生するのが、劣化した電池を燃やして希少金属を取り出すリサイクルの段階だからだ。

 このため、カーボンニュートラル(炭素中立)を目指すには、電池をできるだけリサイクルせずに再利用(リユース)することが近道になる。EVに搭載して劣化した電池でも、再生可能エネルギーで発電した電力を蓄える定置用電池など活躍の場は多い。

 どうしたら電池リサイクルを避けられるか――。模索を始めたのがトヨタ自動車だ。劣化した電池を再利用するエコシステムを構築するための一手として同社が用意したのが、EVの仕様を公開するという方針である。

 対象とするのは、2020年12月25日に発売した2人乗りEV「C+pod(シーポッド)」に搭載する電池や車体などの主要部品(図1)。この超小型EVは国内市場向けで、まずは法人や自治体などに限って販売を開始した。25年以降に導入が始まる見込みの新規制に向けて、トヨタが布石を打つ。

図1 トヨタ自動車の2人乗りEV「C+pod(シーポッド)」
図1 トヨタ自動車の2人乗りEV「C+pod(シーポッド)」
法人や自治体などを対象に、2020年12月25日に限定販売を開始した。価格は165万円(消費税込み)から。(出所:トヨタ自動車)
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 「EVの電池パックを標準化し、形状だけでなく制御方法も含めて外部に公開していく。電池に加えて車体も外部供給する方針で、当社の超小型EVをベースにしたモビリティーを開発してもらって構わない。仲間づくりを加速させたい」

 “オープン戦略”に舵(かじ)を切った理由を語るのは、トヨタでEV開発を主導する豊島浩二氏(トヨタZEVファクトリー副本部長ZEV B&D Lab部長兼チーフエンジニア)である。電池や車体の供給先として、「パワーコンディショナー(パワコン)を扱うメーカーやロボットを開発する企業、モビリティー関連のスタートアップなど、一緒に取り組んでくれる企業と幅広く連携していきたい」(同氏)とする。

年間10万台超えのEVはテスラだけ

 背景にあるのは、EV事業を収益化する難しさだ。豊島氏は「単にEVを造って売ればいいという話ではない。自動車産業は、数十万台売ってやっとビジネスになる」と訴える。トヨタの調査によると、19年における世界のEV市場の規模は約141万台で、自動車市場全体の2%にすぎない。しかも、19年に年間10万台を超える販売を達成できたのは米Tesla(テスラ)の「モデル3」だけだ(図2)。

図2 テスラのEV「モデル3」
図2 テスラのEV「モデル3」
19年は世界で30万台近くを販売した。(撮影:日経Automotive)
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 トヨタが20年12月に発売した超小型EVは、高齢者や免許を取りたての若者などが、買い物をはじめとする日常の近距離移動に使うことを想定して開発した車両である。1回の充電で走行できる距離は150kmと短く、最高速度も60km/hにとどめた。近距離の巡回・訪問などの業務利用も見込めるが、年間に何十万台も売れる車ではない。

 それでも、年々厳しさを増す燃費・排ガス規制や中長期的に達成を目指すカーボンニュートラル(炭素中立)への対応策として、EVの投入は避けて通れない。EVの収益性を少しでも高めていく上で欠かせないのが、「車両コストの3割以上を占める」(ある国内自動車メーカーのEV技術者)ともいわれる電池の扱いである。

 トヨタはEVの電池を標準化することで、「自動車以外の民生や産業向けなどさまざまな用途で同じ電池を活用してもらう」(豊島氏)ことを狙う。これによって規模を確保し、電池のコスト低減を図る。

 超小型EVの発売を機に動き出す電池の標準化。トヨタの視線の先にあるのはコストの低減だけではない。見据えるのは25年以降だ。欧州が引っ張る形で導入に向けた議論が加速しているLCA(Life Cycle Assessment)規制への対応策として、今回の取り組みが生きてくる。