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 菅義偉首相は2020年10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。いわゆる「2050年カーボンニュートラル宣言」だ。日経クロステックでは同宣言を推進する上で、2020年を振り返り2021年に注目したい先端技術をピックアップ。専門記者が分かりやすく解説する。

 二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量が同じになるカーボンニュートラル(炭素中立)。その実現過程において不可欠なのが、実は熱効率の高いエンジンである。エンジンは、CO2を排出する“悪者”とみられがちだが、熱効率の高いエンジンを使った電動車両は後述するように、発電や車両の製造を含めたライフサイクルで捉えると、電気自動車(EV)よりもCO2排出量が少ないケースが現時点では多い。EVは走行時にはCO2を排出しないが、再生可能エネルギーのようなCO2を排出しない発電の比率が高まらなければ、発電や車両(とりわけ電池)の製造で多くのCO2を排出する。

 しかも、発電源を再生可能エネルギーに一気に置き換えていくことは難しい。熱効率の高いエンジンは、そうした過渡期においてCO2排出量を減らしていくポテンシャルを持つ。さらに、再生可能エネルギーへの転換が進んでくれば、電力の安定供給のためのバッファーとして発電している余剰電力から水素を造り、その水素からCO2ニュートラル燃料を製造するという道筋も見えてくる。高効率エンジンとCO2ニュートラル燃料を組み合わせると、燃費に優れたカーボンニュートラルなエンジンを実現できる可能性がある。人類は、エンジンをもう1つの選択肢として使い続けることが可能になる。

 2020年には、英国、米カリフォルニア州、カナダ・ケベック州などが、30年もしくは35年までにエンジン車の新車販売を禁止する意向を発表した。中国も、35年をめどに新車販売を環境対応車に絞ると表明している。脱エンジン車に向けた動きが世界的に加速しつつある。

 こうした中、エンジンの開発をストップさせてはならないと警鐘を鳴らすのが、大手エンジニアリング・サービス・プロバイダー(ESP)の1つであるドイツIAVのMarc Sens氏だ。同氏は、35年に向けて自動車が排出するCO2相当量を減らしていくには、高効率なエンジンが不可欠と断言する(図1。EVの普及だけでは、排出するCO2相当量の低減効果に限界があるためだ。

図1 火花点火制御圧縮着火(SPCCI)と呼ぶ独自の燃焼方式によって高効率化を追求したマツダのガソリンエンジン「SKYACTIV-X」
図1 火花点火制御圧縮着火(SPCCI)と呼ぶ独自の燃焼方式によって高効率化を追求したマツダのガソリンエンジン「SKYACTIV-X」
(撮影:日経クロステック)
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* CO2相当量とは、温暖化係数に基づき温暖化ガス(GHG)の排出量をCO2の排出量に換算した値。

 その根拠とするのが、自動車から排出されるCO2相当量に関する、同社で実施した解析の結果だ。20年から35年にかけて欧州で新車として販売される自動車のパワートレーン構成比がどう推移するかは、さまざまな企業や研究機関、団体が予測(シナリオ)を発表している。それらのシナリオのうちのいくつかに対し、同社はライフサイクルアセスメント(LCA)の視点から解析を実施した。

 同解析では、パワートレーンの内訳は、ディーゼル車をベースとした簡易ハイブリッド車(MHEV)、ガソリン車をベースとしたMHEV、CNG(圧縮天然ガス)車、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、EV、燃料電池車(FCV)のような水素自動車としている。解析においては、自動車から排出されるCO2相当量として、車両生産/燃料生産/発電時に排出されるものも加味している。