カーボンニュートラルの実現に原子力発電は欠かせない。再生可能エネルギーとして期待される太陽光発電や風力発電は出力が少なく、天候に左右されやすいからだ。その点、原子力は安定電源とされる。しかし、2011年の福島第一原子力発電所の事故を受け、大型軽水炉を増やすのは難しくなった。かといって、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い火力発電を増やすとカーボンニュートラルの実現から遠ざかってしまう。
そこで注目されるのが新型炉だ。具体的には、[1]小型モジュール炉(SMR)、[2]高温ガス炉(HTGR)、そして[3]核融合炉、である。経済産業省は20年12月、カーボンニュートラルを実現するにあたって、既存の原子力発電所の再稼働と並行し、これら3つの新型炉の開発を推進するとした*。
* 菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を掲げたことを受け、経済産業省は20年12月25日にその具体的な産業施策として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表した。
工場で製造できる小型炉
3つの新型炉のうち、最も開発が進んでいるのが[1]小型モジュール炉(SMR)だ。SMRは、文字通り小型の原子炉にモジュール化の発想を取り入れたもので、使い勝手がよく安全性も高いとされている。現在、原子力発電所の主流である軽水炉の出力が1基当たり1GW(ギガワット)前後なのに対し、SMRは同300MW(メガワット)以下と小さい。
SMRはその小ささゆえ、主要な部品を工場で製造してから発電所の予定地に運び込める。よって、現在の原発よりも、工期の短縮や初期投資を抑えられるとの期待がある。さらに、電力需要に応じて原子炉の数を変えれば、電力出力を柔軟に変更できるというメリットもある。
1基当たりを小型化・低出力化すると原子炉としての安全性も高まる。エネルギー業界の動向に詳しい、三菱総合研究所セーフティ&インダストリー本部主任研究員の芦田高規氏は「出力が小さいため冷却機能を喪失しても自然冷却による炉心冷却が可能」とその特徴を解説する。福島第一原発の事故では、津波による浸水で非常用発電機が使えなくなり、炉心を冷やす機能を失った。出力が小さいSMRでは、こうした心配を低減できるという。
先行するのは米国だ。例えば、米NuScale Power(ニュースケール・パワー)は小型の加圧水型炉(Pressurized Water Reactor:PWR)の開発を進める。PWRを構成する圧力容器や蒸気発生器、加圧器などを1つのモジュール「NuScale Power Module(NPM)」に収めた、いわば「一体型」の原子炉だ。27年にも、米アイダホ国立研究所に発電所を建設する計画がある。
小型といっても、NPMは7階建ての建物と同じくらいの高さがある。とはいえ、既存の原子力発電所と比べれば、「一般的なPWRの格納容器内に120個以上が収まってしまう」(同社)という小ささだ。1基当たりの熱出力は250MW、電気出力は77MW。工場では3つの部品に分けて製造し、建設地にはトラックや船舶で運び込む。用途に応じて、最大12基までを組み合わせる。
従来のPWRと同じように、NPMは冷却材として軽水、つまり普通の水を使う。炉心で加熱された軽水は高温の高圧水となって蒸気発生器の一次側に入り、二次側に熱を受け渡す。この二次側の熱で蒸気を作り出し、外部の蒸気タービンを回して発電する。従来の原発では、一次側の軽水を循環するのにポンプを用いている。NPMでは圧力容器内の自然対流で軽水を循環させるため、ポンプが不要となる。
そもそも、NPMはそれ自体を大きな水のプールに浸した状態で運転させるため、非常時に冷却材が不足するなどのリスクを減らせる。「冷却するのに、コンピューターや作業員による操作の他、外部からの電源や冷却材の供給を必要としない」(同社)。いわば、受動的に安全を確保できる仕組みとなっている。
SMRの方式は、NPMのような軽水炉だけではない。例えば、カナダTerrestrial Energy(テレストリアル・エナジー)は、一体型の溶融塩炉(Molten Salt Reactor:MSR)の開発を進めている。三菱総研の芦田氏は、「世界では既に50基以上のSMRの開発が進んでいる」とみる。先行するのは、米国とカナダ、そして英国だ。日本では、三菱重工業が20年12月にSMRの概念設計を完了したと公表したが、技術開発と規制策定が進む他国と比べると出遅れ感は否めない。