前回までは、排ガス規制の強化の方向性をみてきた(第1回、第2回、第3回)。今回からは、そうした規制の強化に向けて技術的にはどのような対応が考えられるのか、各社の取り組みを基にみていく。ポイントは、冷間始動時と高負荷運転時における排ガスの低減、および新規の規制対象物質への対応である(図1)。
EHCは7秒の壁、バーナーは音が課題
「(エンジンの冷間始動後)ガソリン車で言えば数十秒、ディーゼル車で言えば100~200秒の間にいかに排ガス量を抑えるかが勝負になる」―。第2回でも紹介したが、冷間始動時の排ガス低減をより重視する方向への強化が予測される次期排ガス規制に対し、さらには排ガスを大気並みにする「ゼロ・インパクト・エミッション」の実現に向けて、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)運営委員会委員長の木村修二氏が発した言葉だ。
エンジンの排ガスは、大半が冷間始動時と高負荷運転時に排出される。その1つである冷間始動時は、排ガス後処理装置(触媒)の温度が十分に上がっていない。このため、排ガスの浄化能力(触媒の転換効率/活性)が低い(図2)。
また、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を含むガソリン車では、冷間始動時には燃料の着火性と燃焼安定性を上げるために、燃料を理論空燃比(ストイキオメトリー)よりも濃いめ(リッチ)にして噴く(始動時増量)。しかも、ガソリン車の場合、冷間始動直後は排気管内に凝縮水がたまっている。そのため、混合気の空燃比を理想的なストイキ(空気過剰率λ=1)に制御するタイミングが遅れる。ストイキへの制御は、エンジンからの排ガス(生の排ガス)を低減できる上、ガソリン車の触媒に使う三元触媒を高い転換効率で利用できるという利点がある。同制御の遅れは、排ガスの悪化に直結する。
燃料をリーンで燃やすディーゼル車の場合は、冷間始動時や高負荷運転時に窒素酸化物(NOx)の排出が増加する傾向にある。NOxを還元するために使われる尿素SCR(選択的触媒還元)システムが、180~200度にならないと活性化しないことや、逆に温度が高くなりすぎても活性や耐久性が低下することが要因である。加えて、尿素SCRシステムでは、触媒が活性化された後も、NOxを適切に還元するにはNOxの濃度と触媒の温度に応じて尿素水の噴射量を高精度に制御しなければならない。この制御が不適切だと、NOxもしくはアンモニア(NH3)の排出が増えてしまう。
従って、冷間始動時の排ガスを低減するには、触媒側ではまず、早期活性化と触媒を効果的に使うための制御が重要になる。触媒が活性化する前の排ガスを一時的に吸蔵する策を講じることも、善後策としては有効だ。一方、エンジン側では、生の排ガスを減らすことが重要といえる。